蝶の王子様
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「自国の革命で、玉座から追いやられた女は怖いねー」
答えたのは、情報部のコウランだ。
イスの肘掛けに肘をついて、机に資料を投げ出す。
カエンが手に取り速読した後、ケイラの手にそれは渡った。
「あの女、自分の国を取り戻す為に守皇島(ここ)を拠点にして、体制を整えるつもりか。まあ、近いからな、そう考えつくか」
「拠点だけで島一つ侵略しますか?リスクがありすぎる。うちの同盟国も黙ってないでしょう」
「同盟国よりも、アヤキの居る位置のが近い。同盟国がうちに来るよりも先に、アヤキが先に来る。それに、この島にはアヤキの手助けになるような秘密兵器が眠ってる。喉から手が出るほど欲しい兵器がな」
ろうそくの火に書類の角を近づけ燃やしながら、ケイラは淡々と説明する。
秘密兵器という言葉を聞いて、友人二人は首を傾げた。
「秘密兵器?」
「我が家に伝わる秘術だよ。まっ、それを使えるのは“今”は俺とシンラだけだな。……子供達が成長したら」
パチパチと、書類が音を立てて燃えだし、ケイラが水を放ってかき消す。
灰の臭いと白い煙が、室内に漂う。
ケイラは一息間を空けた後、意を決した目をして口を開いた。
「子供達を、この島から離れさせる」
「サトラは?」
「あいつは妊娠中だ。長時間の移動は体に障る。死んだ事にして、森の奥にある小屋に一時的に避難させる。生まれたら、子供達の所に移動だ。シンラ、避難先はソウスイの所だ。頼んだぞ」
「また思い切った真似を」
長い時間、家族と離れるのが一番嫌な癖に。
呆れた顔で言葉を放った弟に、ケイラは微笑を返した。
「ちょっとの間だけさ。直ぐ片付ける」
自信満々に言い切った兄だが、養女を含む娘三人と妻を逃がし、残すは息子のカイラだけという所で、消息を経った。
クウラが生まれる、一ヶ月前の事だ。
◇ ◇ ◇
「消息を経ってから一週間ほどで兄は再び姿を現し、今も玉座に座っているが、それは兄じゃない。偽物だ」
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