短編
□M・M
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10年後。
政令都市テルー。
「ご来館誠にありがとうございます。ただいま、4階多目的ホールにて、フィギュア祭を……」
「今回のフィギュア祭は結構掘り出し物あったなー」
アナウンスを聞き流しながら、百貨店のエスカレーターを下る。
今まで手に入れたくても入れられなかった怪獣フィギュアを手に、ユウダイ・タチバナは顔を綻ばせた。
怪獣映画と怪獣フィギュアはユウダイの宝物だ。そして、映画に出る怪獣はユウダイの憧れでもある。
今回手に入れた物はその中でも最上級に位置する怪獣王だった。
家に帰ったら、早速フィギュアを飾る棚に置こう。
穴が開くほど眺めたら、このフィギュアに似合うジオラマを作って、写真を撮るのだ。あのフィギュアと一緒に撮ってもいいかもしれない。
家に帰ってからの楽しみを想像しながら、肩に下げてたリュックにフィギュアをしまっている時、警報が鳴り響いた。
ユウダイの表情が険しいものに変わる。
エスカレーターが緊急停止すると同時に、避難を呼び掛けるアナウンスが流れた。
「テルー市北部にMが出現しました!ご来館のお客様は係員の指示に従い、地下シェルターへ避難して下さい!繰り返します……」
「マジかよ」
Mは首都周辺によく出現していて、ここ政令都市テルーはまだ出た事が無いのに。
M(エム)。それは、異次元から現れる巨大なモンスター。その姿は恐竜や昆虫など様々。時々、動物と動物が入り混じったような奴も現れる。
Mに火器兵器は通用しない。
なぜこの世界に現れるのかも分かっていない、謎多き生き物だ。
ついに来たかという思いと、来てしまったかという思いが交差する。
「巻き込まれるなんてごめんだぜ」
避難する客に混じりながら、ユウダイも百貨店の地下にあるシェルターへと向かった。
◆ ◆ ◆
ずしんと、シェルターが揺れる。
シェルターに入ってから、現実逃避するように居眠りをしていたユウダイが目を覚ますと、シェルターのモニターに地上の様子が映されていた。
青空の下で、黒い煙がもうもうと上がっている。
その中を戦闘機が飛び交い、Mにミサイルを放っていた。
「ミサイル如きでMを倒せるかよ」
頭の後ろで手を組み、背中を壁に預けて座りながら呟く。
モニターに映る四つ足のMを睨む。
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