短編
□M・M
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「総員戦闘配備!繰り返す!総員戦闘配備!」
黒く分厚い雲からどしゃ降りの雨が地上に叩きつけられる中、軍隊のヘリコプターや戦闘機が飛び交い、戦車隊が道路を占拠する。
戦車隊と逆走する形で、市民は慌ただしく走っていた。
どしゃ降りの雨や、軍隊の音に負けない声で、家族が家族を呼び、警察が市民を誘導する。
「目標接近!目標接近!」
軍隊の無線から、前線部隊の報告が入る。
その直後に、市民が逃げて来た方角のビルがなぎ倒され、天と地を震わせる恐ろしい咆哮が、少年ユウダイの耳に入った。
ここは、アムーデル皇国。首都アムー。
アムーにある魔法学校に、元学園長である祖母の用事で来た所、今回の騒ぎにユウダイと祖母は巻き込まれた。
「ばっちゃん!ゴジラだ!」
逃げる市民の中を、ユウダイは祖母の手を握って走りながら、叫ぶように言う。
その表情は怖さよりも、嬉しさの方が勝っていた。
雨で顔をびしゃびしゃにした祖母が、前方からユウダイに顔を向けて、怒鳴るように言い返した。
「バッカモン!ありゃあ、ゴジラじゃないよ!」
「じゃあ、何なの!?」
「ばっちゃんよりも恐い生き物さ!」
「そりゃ恐ろしいや!」
「肯定すんな!」
「自分で言ったんじゃないか!」
そんな会話を二人がしている間にも、戦車隊が列を成して道路を進み、空軍の戦闘機がミサイルを放つ。
背後からミサイルが着弾する音が聞こえ、ユウダイは後ろを振り向いた。
「ユウダイ前向きな!転ぶぞ!」
「うん……」
祖母に言われ、ユウダイは頭を戻す。
人垣の向こうにちらりと見えたビルの隙間。
そこから黒く巨大な生き物と消えかかった魔法陣が見えた。
それから数ヶ月後。
祖母と田舎に引っ越したユウダイが森の中で見つけたのは、大好きなゴジラと外見がよく似た生き物だった。
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