短編

□花と愛と都娘
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「なんか嫌な感じするんだよなー。この校舎」

「おいおい、口に出すなよ孫」

 言葉には魂が宿る。
 力が強ければ、尚更。
 神也は一応神の孫なので、人よりもそれが強い。
 負の言葉は、口に出さない方が吉だ。
 神也は「すまん」と謝り、隣に居る鈴那を見る。
 彼女は、校舎の周辺を注意深く観察していた。

「どうした?」

「浮幽霊が居ない。ここは、霊が溜まりやすくて、神界に送っても直ぐ別の幽霊が出てくるんだけど……」

 今日は居ない。
 否、ここ最近、仕事で浮幽霊を探しても見つからなくなった。

「そう言われてみれば、散歩してても見かけなくなったな。今日の仕事に関係あるのか?」

 白真が問うと、鈴那はコクリと頷く。
 理由は、歩きながら話すと言い、昇降口へと歩き始めた。


 ◇  ◇  ◇


 もう、おしまいだ。

 もう、おしまいだ。

 あいつに喰われて、おしまいだ。

 おしまいだ。

 誰も逃げられない。

 誰も倒せない。

 もう、おしまいだ。


 ◇  ◇  ◇


 同時刻、冥府。
 黄泉の国、あの世とも呼ばれるその場所は、全ての魂が還る場所。
 そして、冥府や神界の罪人を永遠に捕らえておく場所だ。
 冥府の入り口、三途の川を渡った先は、ゴツゴツとした岩が転がる砂利道。
 灯りは、並べられた灯籠の火で賄っている。
 冥府で働く者は鬼と呼ばれる者たちで、人の姿をした者から異形の者まで様々だ。
 今日も冥府は、死神界から送られてきた魂と働き鬼達で賑わっている。
 行き交う彼らを、北条帝(ホウジョウ ミカド)は、冥府の主が住まう屋敷の屋根に座って眺めていた。
 背中まで伸ばした輝く金色の髪を首の後ろで縛り、瞳は澄み切った水色。
 見た目は、外の国の者だが、本人日本人である。千年前までは。
 千年前、人として生を受けた彼は罪を犯し、鬼となって二度と人に戻れぬ罰を背負った。
 今は冥府の鬼として、冥府の主の孫に仕えている。
 よくサボるけど。
 上司から色々と仕事を渡されているが、今もサボってのんびりとしている。
 そろそろ、仕事しようかと思った矢先、鈍い痛みが脳天を襲った。

「イッタ!」

 脳天から頭全体へ、痛みが広がる。
 頭を押さえながら、誰がやったのかと背後を確認すると、墨染色の衣が目に入った。

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