短編

□花と愛と都娘
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「お!飯買いに行く気なったか!」

 キラキラと目を輝かせて、神也を見る。
 それを、神也は黙殺し、白真に背を向ける形で横になった。

「あー!寝るなよー!」

「うーるーさーいー」

 狐神を無視して寝ようとするも、第三者の気配を感じて、仕方なく起き上がる。
 白真も気付いたのか、騒ぐのを止めて、その場にちょこんとお座りをした。

「鈴那ー!いい所にー!」

「こんにちは、白真君。はい、お土産」

 現れたのは、神崎鈴那(カンザキ スズナ)。神也と同じ学校に通う、同級生の少女だ。
 肩まで伸ばされた黒髪は、毛先で切り揃えられ、今はさらさらと風に揺れている。着ている私服は黒色のセーラー服だ。白いスカーフが目にまぶしい。セーラーと同色のプリーツスカートは膝より少し上の長さで、動きやすさを重視した長さだ。
 彼女は、手に下げていたコンビニ袋からいなり寿司を取り出し、白真の前に置く。
 食いしん坊な狐神は、ガツガツとそれを食べ始めた。

「今日は仕事って言ってなかったか?」

「その仕事で躓いちゃったから、助けてもらおうと思って」

 神也の隣に腰を下ろしながら、言葉を返す。
 その顔には疲れが出ており、それを体内から吐き出すように、息を長く吐く。
 そんなに大変な仕事なのかと、神也は身構えた。
 鈴那の仕事は、寿命を終えた魂と浮幽霊の回収だ。
 彼女は冥府に仕える死神で、修行と仕事の為に人間界で暮らしていた。
 今は黒い瞳も、死神の力を解放すれば紫色に変わり、身の丈ほどもある大鎌を自由自在に操る。
 単身、人間界に来ただけあって、彼女の実力は同期よりも頭一つ飛び抜けている。
 その彼女が回収にてこずっている魂は、並みの魂ではないなと、少年と狐は悟った。


 ◆  ◆  ◆


「ここに居るのか?」

「そうよ」

「いかにもって感じだな、うん」

 鬱蒼(ウッソウ)と茂る草木。
 その中に佇む、黒ずんだ建物。
 建物の窓ガラスは長い年月の間、砂と埃を被り、元々あったであろう透明さはない。
 住宅街に囲まれたその建物は、稲荷神社がある地区の小学校、稲荷小学校の旧校舎だ。
 神也は稲荷小学校の生徒だが、当時校舎は新しい物になっており、旧校舎は外から見たことあるだけで、中に入った事はない。
 旧校舎でやる肝試しに誘われた事があるが、嫌な予感がして断った。

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