Story

□椿の吐息
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◆林檎◆



空白に負けた紅い林檎
その蜜は誰のものか
感嘆の沈黙は空腹で
禁断の姿を目に焼き付ける
じわりと少年は海を飲んで
殊更に紛い物を棄てる

嗚呼どうして彼女は泣くのか
一粒の悲しみを背負いこみ
投げだしたい衝動は
束の間の泡沫

迷宮に閉じ込めた蝶の羽音
鳥籠をすり抜けて網目にとまる
黒炭と化した白鍵に群がり
今一度夢を見てほしい

潮騒は心に月を運び
星の髪飾りに手を伸ばす
宵闇と朝食を召し
さらに留め具を壊す
くだらない妄想に爪を立て
裁ち切るそれは満月の陽炎か

無くした過去は未来に流れ
振り返ると猫が一匹
舞踏会に闇を招き入れ
黒髪は宙に浮く
果てしない朝日は薔薇の棘
曖昧な数メートルに
血痕が讃美歌を迷わせる

濁水に両刀を投げ捨て
少年は少女になる
荒れ狂う青空を征して
満面の笑みで自らも果てる

胸を突き刺し
太陽が海に融ける
起承転結な物語は
今から詠み解かれる
ほどいた巻物を眼前に
白き指で紙を叩く
目覚めた文字は怒りと共に
図らずも虜にさせる

如何なることか
この感情の雨音を
五月雨と扇で眠る娘



─2011.8.5─
◇あとがき◇
これはけっこう自信作。
ふとひらめいただけなんだけど。
アダムとイブ(だよね?)をイメージして作りました。
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