気象2
□ニコラス
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「サンタが来るとか来ないとかは、仕方ない事だと思う。それは分かってるよ。流石に俺ももうそんなに馬鹿じゃない。」
そうだ。赤ん坊がどこから来るかくらい、ずっとよく理解している筈だ。
「ジャガイモの正体も知っているし、だからコウノトリは関係ない。」
「…そうですか。」
何と答えたら良いのだろう。
ついでにサンタクロースの正体も知ってほしい?
煮え切らない態度に、正義の顔が少し寂しそうになる。
「あのさ、要らないならこれ、書き換えるから。」
「…いや、欲しいなら欲しいで…でも、サンタクロースだって万能な訳ではないから。」
「何言ってんだよ。万能だよ。」
万能だと信じ込まれていると、非常に困る。
「もし、仮に赤ん坊以外の何かが入っていたらどうするんですか?」
「そんな事、あるわけない。もう、いいよ。領が望まないのなら、俺も望まない。」
決して望んでいるわけではないが、拗ねたようにそう言われてしまうと少し可哀想で、叶えてやりたいと思ってしまいそうだった。
どうしたものか…。正義を見遣ると、ソファに座って何か考えているようだった。
クリスマス飾りの中にある白い綿が目にとまり、携帯電話会社の白い犬が頭を過ぎる。
「僕にも貴方にも、まだ早い。」
「…まぁ、学生だし?」
「そう言う事にしておいてください。」
別に叶えてやりたくないわけじゃない。
きっと、養子だって構わないんだろう。温かい家族、愛に溢れた家庭を夢見ているだけなのだと思う。
もしサンタクロースが叶えなくても、いつかは2人の細胞をどうにかして創り上げてしまいそうだ。
多分、それくらいの事はきっとやり遂げられる。
「領。いつかは、って思ってもいいの?」
「現時点では飽和状態です。」
「分かった。」
物分かりの良さが暴走すると、何をしでかすか分からない。
今回は学生だからまだ早い、ということにして話をやめたとする。しかしそうやって理由をつけて数年は誤魔化したとして自分自身、全く子どもを欲する気がしない。
「変な気だけは起こさないで下さいね。」
「はいはい。」
聞いているようで聞いていないんだろうな。短冊を外そうとか書き換えそうな気配は無し。
あくまでもサンタクロースには頼むつもりなのか。
指先でこめかみ辺りをぐりぐりしながら思案している。
手を取ると、少しひんやりしていた。
「なに?」
「未来に居た?」
少し恨めしそうに見据えながら、横に首を振る。
家族が増えて、暖かい家庭を造り、その成長を暖かく見守る。という夢。
そんなこと、出来る自身が無い。愛を受けていない僕たちで、同じくそれが造れるとは全く思わない。
「領はいつも同じこと言うんだ。」
「何て?」
「『お前にはまだ早い』って。」
白い犬と同じイントネーション。
「すまない。」
「謝るなよ。こういうのは、両者一致で決めないと。」
そう言って逸らした横顔は、やっぱり少し寂しそうだった。
クリスマスへと日付が変わる頃になっても、正義は眠る気配を見せなかった。
だから、ベッドの中でころころしていた彼の身体を捕まえた。
「わっ…と、領!」
「何?」
「いきなり何す、…やだっ…」
普段よりちょっとだけ執拗に彼の体を弄ぶ。
いつまでもピロートークに花を咲かせて、電気を消しても変わらないから。
覆いかぶさって押さえつけて、今夜何度果てただろう。
「うんっ、やっ…っく…あぁっ!…ダメ、ったら…」
「もっと鳴いて。溺れて。」
耳元に囁くように話せば、僅かに葛藤しているのだろう、少しだけ考える素振りを見せた。
「何も考えなくていい。僕だけ…正義。」