気象2

□over the rainbow
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成瀬は人殺しだ。
自分の手は汚さないけど、他人を操って殺させている人殺しだ。

「芹沢を殺したら、それで終わり?」

「終わりって、何が終わるんですか。」

「もう、やめたらいいのに。」

「何を?」

繰り返される同じ会話。
だけど彼は理解してくれない。

「復讐なんて…お前が辛くなる復讐なら辞めちまえばいいって言ってるんだよ。」

「復讐?何の事を言っているんだ。」

決して白を切っている風でもなく、彼がため息をつく。
成瀬が何を考えているのかは、さっぱり分からない。
10年前の事件の加害者側を一掃…つまり復讐を企てているのではないのだろうか。
そのような行動をとりながら、復讐などしていないと言うのだ。

「葛西が死んだ後は、山野も用済み…。」

「何で?葛西はもう許したんじゃなかったのか!?」

「許す?何を。彼が一体何の罪を犯したと言うんだ。」

せいぜい不倫と暴行。被害者でもあるまいし、僕の範疇じゃない。
そう言って不思議そうな顔をする。
そんな顔をしたいのはこっちの方だ。
理解できないのと、怒りと、憐れみとで、パンクしそう。

冷静になろう。

「…第一、どうやって葛西を殺すんだよ。」

山野には殺さないと伝えていたはずだ。一体どうやって。
顔を上げると、とても綺麗で、残酷な冷笑。

「ああ言えば、きっと遂行してくれるでしょう。」

なんだ。殺さないようにいいながら、結局殺すのか。
ぶれなかった軸に、安堵する。
散々止めろと言ってきた事を続行するという内容だと言うのに。
俺もこの人と同じ人種なのだろうか。

「今、ホッとしたでしょう。」

「…っ!」

「貴方は酷い人だ。人が死ねば喜ぶ。」

「そんな事…あるわけがない。」

「そうですか。それではただのお人よしでしょうか。」

「お人、よし…?」

「間中家に不幸をもたらした人が死んだ時、貴方は救われたような顔をする。」





情事の後、並んでベッドに寝転がり、いつものようにピロートークをするのだが、今日はどうもそんな生易しい気分になれないでいた。

「いつかは、俺のことも殺すの?」

「それは分かりません。」

判断の基準もタイミングも順番も、イマイチ分からない。
短期間に集中させたり、間を置いたり。
それが気まぐれなのか計算されているのかさえも。

「俺が何をしたら殺す?」

「邪魔をしたら…だと思います。」

「…邪魔?」

「なので、死にたくなければ、苛つかせないで下さい。そうすれば恐らく、消そうとは考えない…と思います。」

「思います、って言われても…。」

微笑まれても、話の内容との温度差に怖いだけだ。
ちらりと表情を伺うと、こちらの反応を見ていた彼と目が合った。
恐怖を煽って観察するなんて悪趣味だ。

「悪趣味。」

「何のことですか。」

笑えない冗談を言って。
俺を殺す、なんて、笑うにはちょっと無理がある。
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