参画物部屋

□Several O
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店を出て歩き始める。そろそろかもしれない。

「持ちますよ。」

「ありがとう。」

「今日は、何処で何を食べますか。」

「榎本さんもお腹空いたの?」

「人並みに。」

放っておいたら変なタイミングで「お腹空いたー」と言い出しかねない。
さとこはそういう天才的というか紙一重な間の悪さを持っている。

「今日はカレーするからカレー以外。」

「分かりました。」

因みに何カレーをするつもりなのかは気になったが聞かないでおいた。
結局買い物に付き合わされるのだろうし、今考えるべき事でもない。
もっと気になる事がある。

「ハヤシライスはいいんですね。」

「何言ってんの、これカレーじゃないよ?」

洋風カレーとハヤシライス、確かに幾分もちがうのだろうけど。

「ね、功一くん。」

「確かに違いますけど。カレーがよければありますよ。」

「いえ、カレーは結構ですのでハヤシライスを下さい。」

若い店主はさとこのトンデモ理論に大きな反応は見せなかった。
そこそこ親しそうでもあり、慣れ、だけではないのかもしれないが。

「うまっ。やっぱうまい!」

「それはありがとうございます。本当に美味しそうに食べてくれるから作った甲斐がありあますよ。」

とは、何人に言わせたのだろう。
本心から美味しいと喜んでいるから悪い気はしないけど。

「ところでさとこさん、そんなに服買って珍しいですね。」

「衣替えだからね。中々忙しくて。」

「……。」

よもやさとこからそんな真っ当な言葉が聞けるとは考えていなかったから思わず目を見張った。
ハヤシライスを一口食べて、咀嚼しながら心を静める。
大丈夫。四季のあるこの国で当たり前に行われる衣替えを、さとこも当然しようとしていただけだ。

「だけど男物でしょ。彼氏に貢いでるとか?」

「ははっ、そんなの出来たら怒られるから。」

だから、誰にだ。

「そうかもねー。っていうか、そこ2人で付き合ったらいいんじゃないの?」

「いいけど怒られるから。」

どっちだよ。
さとこと付き合う事のメリットと言ったら、鴻野にアドバンテージ?
いや、ないな。そんなものには価値がない、という意味でありえない。

「さとこさんは、よくこのお店に?」

「うん。功一くんが出てきた時からずっと通ってるよ。」

「こう見えても、前科者です。成瀬さんにはお世話になりました。」

「そうですか。」

人はみかけによらない。それはさとこを見ていれば誰もが思うこと。ただそれを、ずけずけと言ってしまう辺りがさとこだな。
言ってもいい相手や場は見極めているんだろうけど。
類は友を呼ぶ。それもさとこを見ていれば誰もが思うのかもしれない。
なんとなく、有明にはさとこと似たような黒さがある気がしていた。
まあ、同じようになんとなく胡散臭くて、なんとなくさとこの近くに居るから他人の事は言えないが。

「じゃあ、届けなきゃいけないから行くね。今日の分はあいつに請求しといて。」

「了解。」

にこりと笑った。のか、にやりと笑ったのか、判別に悩む。
悩んだ、ということは引っ掛かる何かがあったのだから、きっと後者も含まれていたのだろう。
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