参画物部屋
□大宮詰め合わせ2
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01.成瀬ほねつぎ医院
近所の病院。昔からある。地元の人行きつけの病院。
じーちゃん先生がいっつも優しく診てくれたっけ。保健室をちょっと本格的にしたようなそこは、街の診療所って感じだった。
「成瀬ほねつぎ医院」
ほねつぎ、と書いてあったけど。
運悪く事故に遭い、運ばれたのは成瀬ほねつぎ医院。
言葉に出来ない変な感覚と、状況をいまいち掴みきれずに不安だった心は、見知った顔に少し和らいだ。
「大丈夫かい、正義くん?」
「脚が、痛いです。」
「そうかそうか。折れとったからのー…。」
「そう、なんですか。ついてねえな。」
じーちゃん先生と話ながら、はたと思い出す。
「どうしたね?」
「ここ、こないだ閉めなかった?」
そう。去年の予防接種に来た時に言っていた。
そろそろ歳が歳だし、閉めることにした。と。そして数ヶ月前に閉めた筈だ。
「いい後継ぎが来たもんで、譲ることにしたんだよ。」
「後継ぎ?」
「そう。あれは自由な時間をもてあまし、パラオに行った時のこと…。不運にもバスジャックで大変な事になった時にさっと現れてさっと解決した素晴らしい男がいてな…。」
「先生、またその話をしているんですか?」
きっとこの穏やかな声の持ち主がその素晴らしい男なんだろう。
思い切り動くのは未だ怖いから、少しだけ、ゆっくりと顔を向けて姿を探す。
駄目だ。じーちゃんの陰になってて見えない。
「気分はいかがですか?」
「あ…っと、脚が痛いです。」
「ああ、そうだったな。悪かった。今、薬持って来てやるからな。他にも何かあったら先生に聞くといい。ヨーロッパのどこだったかのでかい病院に勤めていたそうだし、きっと何とかして下さる。」
そう言ってじーちゃんが出て行って、そいつの顔が見えた。
びっくりした。随分、綺麗な顔をしていた。
名札なんかはしていないから名前は分からない。
「ええと…」
「成瀬。」
「え?」
「僕も成瀬、です。後継ぎですから。僕は親が居ない、先生は子が居ない。彼の様な素晴らしい人の子になれるのなら、養子だって何だって…。」
「嘘…。」
「本当ですよ。」
余りにも話が上手過ぎて、胡散臭い。この人の整い過ぎた容貌や雰囲気も相まって、更に胡散臭い。
出来過ぎだ。だけど、あのじーちゃん先生に近付くにしても、俺が言うようなことでもないし、ちょっと申し訳ないけど、何か利益があるとは思えない。
と、すると、やっぱり残るのは他の人には口外出来ない事情があるとか、身を隠したいとか、そういう怪しい奴だって可能性。