参画物部屋

□蓋をした感受性
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「今日は活けないんですか?」

「うん。ちょっと、色々と感性を働かせ過ぎて疲れた。」

「それは残念です。」

残念だと言うからには、残念だと思っているのだろうから光栄と言えば光栄。
だが内心微妙だ。
諸悪の根源が自分だと言う事には一向に気づく気配を見せない。
いつもそうだ。何かと他人の心の動きに敏感なくせに、自分が絡んだ途端に気付かない。

「心臓に悪い。」

「心臓がどうかしたんですか?」

「なんでも。」

道具をしまい始めると、一応活きているらしい作品を俺の机に置いて彼も片付け始める。
深い意味は無いのだろうが、死にかけているのならそんな所に置かないでほしい。
と、思うもそんなこと彼にはお構いなし。
なにせ、自分によって引き起こされる他人の心情などないと思っている。
彼は作品を造る時に拘りはないが、気付いているだろうか、彼の作品はどれも無口だ。
気付いてないだろうな。いつも「五月蠅い」だの「喧しい」だのと黙らせる方向へ修正したがる。

「成瀬さんって、案外鈍いトコありますよね。」

「ありますよ。」

「なんだ、自覚してんの。」

「ある程度は鈍くないと、負けても困りますから。」

負けるって、何に負けるんだよ。

「貴方もそうでしょう。あまり他人を自分の中には受け入れたがらない。」

「そりゃ、誰しも認められる奴と認められない奴はいるだろ。」

別の次元の話だ。気付かないのと、わざとシャットアウトしているのとでは。内容も違う。

「へぇ…。参考までにお伺いしますが、僕は?」

「有り、かな。」

「御村くん、変わってると言われせんか?」

「特には。」

何故そう思ったのかは分からない。
どうあっても心臓に悪い男だから、聞かないのが正解。
と、頭では分かっている。それでも好奇心とは恐ろしい。怖いものほど覗いてみたくなるのだ。

「成瀬さんこそ、変わってるよ。」

「ふふ、そうですか。」

「なにか、面白かった?」

「いえ。貴方が言うなら、そうなのかもしれないと思って。」

「あんまりアテにされても困るよ。」

「さぁ、どうしましょうか。…ところで明日は何の花がいいですか?」

どうしましょう、とは随分といい加減なもんだ。
しかも明日も来るつもりだったのか。
毎日ではないにしろ、気付けばいつからかこの人が家に来るのは今では当たり前みたいになっていた。
こういう無自覚な所への影響を、どうして彼は気付けないのだろうか。

「折角活けるのなら、今度一緒に花を見に行かないか。」

「……そうですね。」

「何、どうかした?」

「どうもしませんよ。」

「あ、一応確認取るけど普通に昼間の花屋だから。早朝の市場じゃくて。」

「分かりました。」

今、絶対に朝から市場に行くと思ってたな。
じいさんはとかく拘るからそうだったかもしれないが、俺は流石にまだそこまではしない。
いつかはそうなってしまうのかもしれないけれど。

「では、明日、学校が終わる頃迎えに行きます。」

「了解。」

…え、明日?
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