参画物部屋

□塩分0.9%
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「熊田さん?」

あぁ、またやってしまった。この人を相手にした時はつい手加減を忘れてしまう。
意識を飛ばしてしまった彼を起こしてまで遊びたい気分ではない。
いたぶるつもりなら最初からそうしている。
彼にとっての僕は悪魔。
天使になってやっても構わないけれど、僕の事を嫌いで居たい彼への救済としての姿が天使でないのならとことん恨ませてやろう。
仮に天使になってしまったら、この人は怒りや悲しみ、憎しみ恨みを持て余してしまう。

「ん…つ…」

「おはようございます。お加減は?」

「最悪。寝起きにお前に会うなんて。」

「それは失敬。」

「そんなこと1ミリも思ってないくせに。最悪だ。」

マイナスな感情は全て受けましょう。
ぶつける相手が居なくてコントロールを失った怒りは酷い。
貴方の嫌いな悪魔として、甘んじて受けてやろうではないか。
勿論そんなことは言わないが、もし僕の感情に芹沢以外に向ける余裕があるのなら、誰にどんな感情を向けるだろう。
手加減は苦手だから、弾丸のようなぶつけ方をするかもしれない。
だからそうならないように、聖歌で流さなければならない。










成瀬がどう思っているのかは知らない。丁度良い玩具。そんなトコだろう。
だけど俺は違う。嫌いだとは言っている、というか本当に嫌いだ。
嫌いなのは仕方ないが、それだけじゃない。嫌いではあるが必要ではあると認めている。
大げさだが、ひょっとすると、成瀬が居なきゃ、平静を保ち、俺が俺である事が出来ないのではないかと考える瞬間がある。

「教会?」

「ええ。」

それで、俺にこいつが必要なように、こいつには教会の…彼女が必要なんだろう。きっと。

「帰っても構いませんが、出来ればそのまま休んでいる方が身の為ですよ。今夜も呼びますので。」

「けっ。ふざけた奴。」

「では。」

成瀬が出掛けて行って、部屋に1人。
別に泊まりたくている訳じゃない。帰るのが面倒になっただけだ。
誰しも、何か拠り所が必要だったり、なんて当たり前のこと。それが人間だっただけで。
俺にとっては成瀬で、成瀬にとってはあの人で。
成瀬はあの人に、何を求めているのだろう。そんな疑問すらも成瀬への怒りに変わるから不思議だ。

「……なーんだ…。」

そういうことかよ。
単に俺は、一方通行なのが不満なんだ。
あいつは好き勝手しておいて、なのに俺にとって必要な存在になって、だけど必要とされない俺自身が、寂しいだけなのか。
きっとこの寂しさもすぐに怒りに変わるのだろう。
だからあいつが居ないと駄目だ、なんて思考にもなるんだ。
…早く、帰って来いよ。それで、お前も俺を必要になったらいいんだ。



俺の涙の訳は、誰も知らない。










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特に意味のないアンケート「塩味」に戴いたコメントより。
悔し涙は塩辛いと、よく言いますが、0.9%なら、±0.09%までは大差ない気がします。
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