参画物部屋
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聖歌はどうして、こんなにも心に響くんだろう。
決して歌のテクニックがある訳じゃない。それなのに、苦しくなる。
「熊田さん。」
「…用事は?」
目の前の悪魔の声に、耳の奥に響いて居た聖歌は消えていた。
「来てください。」
こんな奴、殺してやりたい。
なのに、そんなことは出来るはずもなく、殺してやりたい相手に大人しくついて行くことしかできない。なんて歯痒い状況だ。
目の前に居るのに。交差点、下りの階段、何度も殺せるチャンスはある。背中を押せば殺せるのに。
突き飛ばすことが出来れば。たったそれだけのことが出来ない。
俺を押し倒すこいつを突き飛ばすことが出来ればいいのに。
調教された身体は触れられればいとも簡単に俺を自由にすることを許す。
「やめろっ…こんな用事なら、帰らせろっ。」
「昨晩も同じ言葉を聞きました。」
「だったら、離せよ。」
「しかし貴方は泊まっていった。」
「そっ、れは…。」
「抱いてください、と強請って。」
泊まってしまったのは故意じゃない。気を失ってしまったからだ。
それに、抱いてくれと言ったのは強要されたからだ。
だけど成瀬は口元に嘲笑を浮かべただけ。
「今日は、どうしましょうか。」
「俺を解放しろ。」
「それは出来かねます。」
「なら、聞くなよ。」
「…そんな殺し文句が聞けるなんて。」
「お前、頭がどうかしてるんじゃないのか。」
ありえない。殺し文句?ふざけるな。
いつも聞いておいてその通りにしたことなんてないじゃないか。
時には酷く、時には甘く、その時の気分で俺の体で遊んでいるだけ。
いっそ故障してしまえば遊ばれる事もなくなるのに、自分でも驚くぐらい頑丈で嫌になる。或いは成瀬が上手く調節しているのかもしれないが。なんにせよ癪に障る事には変わりない。
「そんな照れた貴方も可愛いですよ。」
今日は甘やかすのか。
成瀬の演技力には恐怖すら感じる。いや、実際恐怖を感じさせることもあるのだからそれは語弊があるか。
単調なものは無い。なにかしらのスパイスがある。
付き合いたての初々しい優しさや気づかいのある甘さを醸し出す時もあれば、恨む相手をとことん痛めつけるような酷さ。時には拷問まで平気で行う。
ただのロールプレイなのに、それが本当にそう思われているのではないかと錯覚させられる。
愛されていると感じ、恨まれていると感じ、だけど遊ばれていると知っている。
「絶対お前なんかに懐くものか。」
「…何故です。」
何故、だと?そんなの聞かなくても分かるだろう。
「俺はお前が嫌いだ。」
「ええ。だからそれが何だと言うんです。好き、嫌い、そんな些細な事は主従には叶わない。」
主従だと。いい加減にしろ。
「女に困ってる訳じゃねーだろ。」
「ええ。鬱陶しいくらいに。」
「男にも困ってるわけじゃないくせに。」
「そうですね。それでも貴方でなければ、面白くない。」