気象2
□天使的小悪魔
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チャイムが鳴った。
通販…頼んだ覚えもないし、訪問販売だろうか。
追い返そう。そう思って開けたら、帰った筈の虫歯菌が戻って来たのだから驚いた。
訪問販売ではないけど、とりあえず追い返そう。
「用はありません帰って下さい」と言おうと思ったのに、目を見たら口が勝手に「ようこそ、上がって下さい」と言っていた。
何があったのか呆然とする俺を見てニッと笑った悪魔は、
「俺の力を持ってすればこの程度…」
と言って上がり込んできた。
そしてお決まりになったDVD観賞をしたり、ごろごろしたり。…アイス食べたり。
そして最終的には俺の携帯電話をいじりながら、
「やっぱ…かっけぇぇーよ…」
なんて虫歯菌が独り言を言って悶えていた。
のが、昨日のこと。
仕事だから置いてきたのに。あのへんてこな恰好、間違いない、あいつだ。
なんで普通にスタジオに紛れこんでんだよ。
いかにもスタッフや関係者を装ってこっちを見ている。
まさかこのスタジオの人間にも「ようこそ」とか言わせたのだろうか。
「どうやって来た。止められなかったわけ?」
「適当に「お疲れ様です」っつっとけば大丈夫なんだよ。」
こいつ、どこでそんな知恵を仕入れた。
「って、二宮和也が言ってた。」
……なるほど。確かにそうだ。誰もがあの人だと間違うだろう。
顔パスで通じるって凄いけど、便乗の悪用じゃねーか。
しかも、どこかへ連れて行かれたとしても二宮さんの居るべき場所。
まさかそのそっくりさん本人が味方だなんて。
二宮さん、どこで会ったのかは知らないけどいらん事を教えないで下さい。
「何で俺を見ながら惚けてたんだ?」
「……。」
誘惑ミッションをクリアするためにリベンジに来たとも考えられる。
力を取り戻したからこっちのもんだ、とか言ってたしな。
「お前…じゃない、和也さん、アンタ結婚してんだよな?」
「重婚OK。」
はぁ?答えになってねぇよ。
家に帰っても虫歯菌の様子はおかしい。思えば昨日からおかしい。
じっと見ていたら、勝手に赤面して向こうを向いた。
だから、お前は結婚してて、新婚の熱々だって惚気てただろこないだ。
だけどそんなの全く聞いて居なくて、
「俺、ファンになったんだ!」
と目をキラキラさせながら詰め寄って来た。
悪魔のくせに、瞳の輝きはガキと変わんねーのな。
いや、それ以上かもしれない。純粋に、気に入ったものを見つめる目。
「何の事だよ。何があってそうなった。」
聞くとどこからかギターを持ってきて、皮ジャンやらジーンズやらブーツやらも取りだした。
だから、どっから出してんだよ。
「こういう服来て歌ってる矢野健太から感じる悪意と反社会的な精神、かっこいいだろ!俺が弾くから…」
「総じてパンクとかロックな。」
「へえ。じゃあ、矢野健太は歌うんだな。」
「歌うよ、歌のおにいさんだから。ま、残念だけど俺はもうGizelleからは脱退してるから多分ロックはない。」
「何だって!?」
ポッキーと分け合う事の関連性を否定した時と同じくらい、この世の終りみたいな顔。
なんでそうなる。
「大丈夫。お前は悪い奴だ。ロッカーになれる。」
ロッカーは知ってるんだ…。
「仮に悪い奴だとして、歌のおにいさんは健全なの。」