気象2
□ベターパートナーズ凸凹
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「お久しぶりです。」
聞き覚えのある声に、振り向くか、振り向かざるべきか迷い、逃げても仕方ないと振り向いた。
「こんにちは。お久しぶりです。新しい家の住み心地はどうですか。」
「最高!榎本さんに任せて正解だった!前のトコ、訪問販売とか多くて困ってたんだよね。」
それなら何故早々に引っ越そうと思わなかったのか、理解に苦しむ。
「よかったですね。」
「うん。」
「……。」
「……。」
もしかして、いや、9割9分、何か聞いてほしい話や用があるのだろう。
そして、その内容は10割、つまり確実にとんでもない話なのだろう。
こちらから切りだすべきか、待って避けるべきか。
まあ、今までの経験から、他人の話によって窮地に追い込まれるようなことはなかった。
面倒でも大抵は解決出来た。
さとこに恩を売っておいた所で何も見返りがないのは先日の一件で分かってはいたが、聞いてやらないよりは聞いてやった方がいい。
放っておくと鴻野の所へ行きかねない。
結論が出た所で目を見つめると、こないだとコンタクトレンズの色が違っていた。
「どうかしたんですか?」
「聞いてくれる!?」
今にも「ちょっと聞いてよ!!」と話しだしそうな顔をしておいて今更。
「立ち話も何ですし、どこかへ入りますか?仕事でしたら店に来て戴いても構いませんが。」
「行く。榎本さんの店で話す。仕事のことなんですよ。」
と、言っていたのだが、我慢しきれなかったらしい。
道々聞いたところによると、今度は、どう見ても借金取りのチンピラにしか見えないのを助けてほしい…と、どうみてもアッチの世界の人にしか見えない厳つい男に頼まれた、らしい。
見た感じは強盗殺人事件なのだが、本人は借金を返してもらいに行ったら死んでいたし現場は荒れていたと言っている、らしい。
更にさとこの勘によると真犯人はそのチンピラ、らしい。
どう考えてもさとこの話は、そいつが犯人だと決めてかかっているので他には考えられないのだが。
「そんなに犯人だって言っているのなら何故依頼を受けたんですか。」
「犯人面だとは言ってるけど犯人とは言ってないし、報酬がヤバいの!」
「…なるほど。」
それなら仕方ない。
かといって、記憶に新しいその事件はあまり関わらない方がいい筋の奴だった気がする。
死んだ方は、何年か前にレスキュー法律事務所が似たような事を暴いたから、よく思われていないのは確かだと思う。
生きている方とも似たような関係で、下手に動いて決定的な証拠を見つけて犯人だと言ってしまっても危険だ。
いや、寧ろその為の罠か?
大人しく手を引いた方が良い気もするのだが、さとこは引かないだろう。
「さとこさん、そちらの方が本当に犯人だった場合、貴方危ないですよ。」
「何で?」
「そこの組の人、貴方の事務所と犬猿の仲ですから。」
「嘘だぁ。ちょっと電話して聞いてみる。……もしもしー?こないだのオッサンさあ、ウチと仲悪いのー?」
「……。」
電話をかけるにしても、場所は考えない。電話の相手が何をしているかお構いなし。
さとこは聞きたい事を聞いて、最後に「大丈夫だから。」と言って一方的に切った。
心配になる気持ちはよく分かる。
こちらに変わってくれたなら、大丈夫ではない、と答えたのに。
「大丈夫。行っていいって。ゴーサイン出た。」
本当だろうか。俄かに信じがたい。
そしてそれは許可が下りたのか、命令が下ったのかどちらなのだろう。
気にしてもどうしようもない。なにせ、彼女は大野さとこなのだから。
「分かりました。では、状況をもう一度軽く話して下さい、それから現場に行ったり話を聞いたりしましょう。」
「了解。」