気象2
□凸凹ベストパートナー
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レスキュー法律事務所に勤務して数年。
手伝いから始まって、小さな仕事なら任されるようになってきた。
そんな中巻き込まれた事件。…専門が刑事だから殆ど事件ばかり取り扱うのだけど、とにかく事件に巻き込まれた。
同僚の青砥純子から渡された手書きの地図を持ってF&Fセキュリティ・ショップへ向かう。
そこの店長は防犯コンサルタントと言うだけあってかなりの腕利きのようだ。
それらしき建物が見えてきて、出がけに言われた言葉を思い出す。
「足元見るから気をつけて。」
きっと、泥棒崩れか何かなんだろう。そこは深く追求しなければいい。
「こんにちは。お時間いいですか?」
「いらっしゃいませ。どういったご用件で?」
「レスキュー法律事務所から来ました。用件は、あたしのクライアントの無実の証明、もしくは真犯人を探し出す。…なんですが、頼めます?」
「…クライアントが真犯人である場合その2点は矛盾していますがどちらを優先しますか?」
「あ…。そっか。アイツ犯人面してるもんなー。こっそり真犯人だって教えて?無実の証明しないと報酬貰えないから。」
その言葉に、径がレスキュー法律事務所に危機感を感じたのは確かだ。
「とりあえず、お話聞かせて戴けますか。」
「強盗が入って来たから、「正当防衛だ」って言って立ち向かったんだけど、殺されたの。これが被害者。で、クライアントはやってないって言うの。空き巣には入ったけど誰にも会わなかったって。おかしな話じゃない?」
「おかしいですね。目撃者がいたんですか?」
「居ないの。そもそもなんで立ち向かったのかな。」
「それで、誰が立ち向かったのを知っていたんですか。」
「身長2メートルくらいあいありそうな人に、普通…」
「弁護士さん、聞いていますか。何故正当防衛だと分かるんですか。誰も2人を目撃していないのに。」
「声だけ聞こえたみたい。壁が薄いらしくて、「なんだお前」とか「出てけ」とか「正当防衛だからな」とか。」
「そうですか。」
青砥純子も相当とんでもない感性を持っていたが、あの事務所の雇用基準はそれなのか。
若いし、頼りないし、とんでもない。
「何か分かった?」
「貴方の話では何も分からなかったので警察に事情を聞こうと思います。」
「じゃあ解決してくれるの?」
「ええ。今更ですが、貴方のお名前は?」
「大野さとこ。よろしくね。」
「はい…。」
元気は良さそうだが、金髪はないだろう。
服装も、化粧も、ただのギャルじゃないか。
目許なんか、カラーコンタクトやつけまつげのせいで印象はガラッと変わっているだろう。
それらがなければ、涼しそうな目をしていそうだ。
「大野さん。」
「すみません、出来れば名前で呼んでいただけませんか?すごく、違和感があって。」
「新婚ですか?」
「まさか。そんな事したらそれこそ大事件ですよ。」
何故。結婚適齢期の女性が結婚して何故大事件に変貌するのだろう。
「それは失礼。」
「いえいえ、いいんです。」
綺麗にデコレーションされたネイルが目の前でひらひら揺れる。
外見は頭のてっぺんから足のつま先まで、ギャル、らしい。
そんなことはどうでもいい。
「報酬は…」
「成功したら50万、失敗したら10万、日当1万、その他色々…ですよね。」
「そこは聞いてきたんですね。」
「足元見るからしっかり頭に入れて行って、って言われました。」
「へえ、青砥先生にしては随分と気のきく事を…。」
「え?違いますよ。鴻野刑事ですよ。いつでも俺に電話して来な、とか言ってた。それで青砥さんに相場を伺ったんです。」
よく、あのハゲコウを落としたもんだ。こんな、一見すると頼りなさそうなのに。
あいつは誰が相手だって容赦はしない。この、さとこだって同じ筈だ。
だとすると特別な関係があるのか。
「彼とは知り合い?」
「はぁ?ないわー。刑事なんかただの顔見知りじゃん。」
「そうですか。」
「でも榎本さんは知り合いなんでしょ?鴻野刑事が滅茶苦茶悪口言ってて超笑ったんだから。」
何を言ったのかは分からないが、とんでもない事を言ってくれたのは確かだろう。
思い出したのか、笑いながら、さとこは目の前でコーヒーを飲みながら資料を出し始めた。