気象2

□over the rainbow
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over the rainbow





死んだ母は、僕に人生にとって大切な事を教えてくれた。
体が弱く、先が短い事が分かっていた彼女はいつも好きだったこの曲を流していた。
僕たちをおいて行くには、彼女にとって僕たちは幼すぎたのかもしれない。

虹の向こう。青い空。雲の彼方。星に願う。青い鳥が飛ぶ。いつか其処へ。

あまりに現実離れした文句をの並ぶこの曲を、よく見つけたものだと思う。
だからこその名曲なのかもしれないが。
願う事を決意する詩。










そんな現実離れした思考を本気で持ち合わせた人が居る。

彼に初めて出会ったのは大学生の時だった。
同じ司法セミナーに通う学生。
近くに法学部を設置している学校は無かったからすぐに後輩なのだろうと推測できた。
また、名字からそれが熊田高広の息子だろうということも。
近付いてきたのは向こうから。
学内で見かける度に挨拶をしに来て、何故か好きになったらしく、放っておいたら告白された。
それに対して社交辞令的に謝意を伝えたら、何を勘違いしたのかこちらが交際の承諾をしたと受け取った。
以来、彼は僕の交際相手になった。
いや、僕が彼にとって交際相手になったのか。

考え方の違う彼と話していると面白い。
甘い思考、甘い幻想、全て虚構の妄想でしかないのに丸っきり世の中の道理だと思い込んでいる。
悩み、困ったこと、それら全てがいつかはレモンの形をした雫となって溶けていくと信じている。
どんな夢物語を聞いて育ったのだろう。
信じた全てが現実になると思っている。
誰しもいつかはそこへ辿り着く事が可能だなんて。ありえない。
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