企画物部屋

□美しき造形学
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あの人がいた感覚がまだ残ってる。
広げられた箇所から、甘い疼きを伴った幸せがじわりと広がる。
起き上がると、それらは残渣と共に零れた。
ああ、1つになれたらいいのに。こんなこと考えてしまうなんてどうかしている。
1つになったらまた孤独になって、そしたら再度別の1人を求めてしまうのに。
別であるからこその愛おしさなのに。

「……あの人、もう起きたのか。」

隣に居ない彼と、昨夜の自分に苦笑した。










求められる事が何なのかを考えながら、それに沿って動く。
そんなのは当たり前の事で、特に俺はそういう意識が強い方だと思う。
多分、小さい時から、何をどのようにしろだの、もっとこうしろ、と要求される事が多かったからだ。
最初はどうしていいか分からなくて、怒られないため言われるがままに動いていた。
少しずつ、自分で求められるものを考えられるようになって、積み重ねた今がある。

台本に則って、求められる像を確実に作って行く。
そうすれば、求める像の為に作られているストーリーだ。綺麗にまとまる。
バラエティだって、歌だってそう。ズレちゃいけない。飛び出せば、外れる。
期待通り、想像通りを、きっちりこなす。そういった微調整は、持ち合わせた繊細さのおかげかどんどん精度を上げた。

何をしたらいいのか分からなかったあの頃も、何をしたらいいのかは決まっていた。
すべきこと、求められる事がある。そんな期待通りの縛りの中はとても楽だ。
本当に自由にされるよりは、ある程度の規則のある自由の方が楽だと言うのは本当だと思う。
でも、だからといって本当の自由に憧れない事もない。

「今度は何作ってんの?」

「えーっと……人?」

人…?って、疑問にする必要はあるか?

「また大宮SKはあるんですか?」

「どーしよっかな。」

「今度作るなら色つき下さいよ。」

「前回の大宮SKは自分で色をつける用のやつだから、ニノが好きに色つけたらいいんだよ。」

そう、言われても。
折角の作品を、俺が下手に筆を走らせたらぐちゃぐちゃの怪物みたいになってしまいそうだ。

「練習用とかあったらね、やってみるかもしれないけど。」

「いいんだよ、その時思ったようにばーってやっちゃえば。」

「ばーって?」

「うん。そんで最後に細かい所ちょんちょん直して飾って出来あがり。」

「ちょんちょんと?」

ばーっとやって、ちょんちょんやっただけで、あんな仕上がりになるわけがない。
それで出来てしまう彼に、やはり芸術家なんだと毎度感心する。同時に安心する。この人はこの人なんだって証明みたいに感じるのかもしれない。
俺の手品に毎回感心してくれるのと同じようなものなのだろうか。
ある程度練習が要るという点では似たようなものなのかもしれないが、決まった動きを同じもの相手に留めるか、形を変えて行くかはまた別の話。
手品と芸術性が同じだとしたら、1つのタネから新しく2つ、3つと増やしていかなければならないことになる。
それになにより、1から2へ行くのと、0から1に行くのとでは全然違う。

「やっぱり貴方は天才ですよ。」

「ん?」

「聞いてなかったでしょ。」

「うん、ごめん。」

この人だけは、自由で居てほしい。
どれだけ枠にはめられそうになっても、何かを求められても。
たまには逃げてもいいから、自由で居てほしい。
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