企画物部屋

□フレンズ-悪友-
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地下のバーで待ち合わせをしていた。
同じ顔した、仕事仲間?なんと表現したら良いのだろう。約10年の付き合いはあるが悪友でもなく、いわゆる共犯とでもいえば良いだろうか。

「径、首尾は?」

「領こそどうなんだ。」

お互いに、自分は抜かりがないと確認する。
世の中すべてを蔑んだような目でアイコンタクトを交わして店を出る。
これから約17憶盗み出す。
盗み出すこと自体は榎本が、その後の金品の流れや揉み消しは成瀬が担っていた。
素性は知らない同士だが、それは興味がないだけ。
重要なのは腕だ。そこは信頼し合っていた。
素性の知らない者同士が共犯で大仕事をするなんて考えられないかもしれないが、本当にそれは興味の1つでもあれば聞ける事項なのだ。



2人が出会ったのは運命と言っても過言ではない。
家族を亡くし、復讐を誓うもその日暮らしが精一杯だった成瀬。いや、間中。
何不自由なく与えられる家庭に育つも物理的に満たされる側面で神経をすり減らしていった榎本。
雨の深夜、出歩く者などいない。
猫の子一匹いないひっそりとしたソコで、間中と榎本は出会った。
それは人生最悪の夜であり、最高の転機であった。











「派手に殺ったね。」

声をかけられた少年がびくりとして振りかえる。事故ではあったが、疑われても仕方がない状況だ。
ゆっくりと少年が振り返る。しかしお互いの顔を見て、2人とも動けなくなった。
鏡に映ったようなそっくりな顔。背丈もさほど変わらないだろう。

「俺は何もしていない…。事故だよ。」

「残念な最期だ。」

信じるとも信じないとも言わず、落ちていた学生証を拾った。

「成瀬領…。通報しておこうか。そうだ、僕は榎本。君は?」

携帯電話を探りながら、それは先ほど置いて来たのだったと榎本がポケットを探るのをやめた。

「…俺が…いや、僕が成瀬だ。残念な人生と残念な最期を迎えたそいつの名前は間中友雄という。」

成瀬と名乗った少年がポケットから学生証を取り出し、間中と紹介した方に投げ捨てた。
それを見て榎本が軽く顔を上げた。

「ふ、そう。間中は死んだのか。」

「あぁ、たった今。」

「君は1人か?」

「目の見えない姉が1人。入院している…らしい。」

「そう。」

らしい、と強調され、ならばよっぽどのことがあって間中は死んだのだろうと榎本は判断した。
家族は1人。
よっぽどの事情。自分を消さなければいけない程の。
考え始めて、消えてしまいたい自分と被って見えたのでこれ以上は神経をすり減らすだけだと考えるのをやめた。

「間中は完全に死んでいないし成瀬は完全に生きていない。」

「どういうことだ。」

成瀬が榎本を睨むが刺さる視線をかわして榎本が口元を緩めた。

「例えば、卒業アルバムや補導歴。それから指紋に遺伝子検査。…照らし合わせていけば全てが繋がる。」

「…っ!」

「あ、補導歴は僕も有るから気にしないで、という訳にもいかないのか。誰もが忘れてくれるといいけどね。」

成瀬と間中の間にある繋がりを。そう言外に含みつつ、榎本は間中の学生証についていた指紋を拭き取り、倒れている体の近くに置き直した。
別のスタート地点に立つには、柵はすべて断たなければいけない。
間中と成瀬、この繋がりがいずれ足枷になるかもしれない。
しかしその程度のことなど成瀬は気にしていなかった。

「問題ない。それが露呈しようと昔の話だ。」

「昔の話、ね。」

遠くを見るような目をして成瀬が話すので、榎本もそれに倣った。
何か自分の興味関心を引くものを見ることなど今まで無かった。成瀬の様にここまで何かに憎悪を抱くことも。
素行が露呈する為には調査される対象にならなければならない。
それが、今が昔になるような未来の話。
自分にはない燃える何かを持つ、自分とそっくりな成瀬に魅かれた。多分、心の奥底で息まいている悪魔か何かに魅かれているのだろう。

「とりあえず何をする?」

「家族に会う所からかな。」

それは詰まらない、と榎本は感じた。
成瀬の側に居て、野心を遂げていくのを見たいと思ったからだ。

「もし、良くないことをしようと思っていたら電話してよ。」

榎本が成瀬の学生証に番号を書いた。
学生証を受け取った成瀬が訝しげに榎本を見た。
真意を探る為、或いは、利用価値を探る為。
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