参画物部屋

□貴方は泣いている
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芹沢の眠る姿が視界に映る
穏やかな眠りではないのは簡単に予測できた。起きる気配は無いのにうなされていて。
困ったように、店長としおりが顔を見合わせた。
となると必然的に声をかけるのは

「芹沢さん。眠るのでしたら家に帰られては?」

僕の役割。

「う…ん……」

「起きて下さい。」

「く…」

「…風邪を引きま…っ!」

「やっ!」

伸ばした手を、思い切り払いのけられた。
悪夢でも見ていたのか、目を見開き、怯えた表情を見せる。

「目は、覚めましたか。」

「あ…俺…」

「随分うなされていました。」

「そっ、か…。」

まだ震える声で、目線を逸らした。
こんなにも、何に怯える必要がある。人殺しなのに。
誰からも守られているというのに。
だが、そのような思いは無関係、本当に身を竦ませている彼は、このままでは動きそうもない。
声をかけるのは諦めて、そっと手を差し出した。
それにすら身を震わせる芹沢。差し出した手を彼の目の前に浮かせたまま、20センチ程度の距離で止めた。

「これ以上は近付きません。」

「……え?」

近付かない、と聞いた途端、強張った緊張が僅かに解れていくのが分かった。
だけど警戒そのもの解かれない。

「帰れるのなら、立ち上がってください。」

ゆっくりソファに手をついて、立ち上がろうとするが、何かの暗示にかかったようにそれが出来ない。

「帰れないのなら、僕の手を取ってください。」

話を聞いた芹沢は、少し迷ったがゆっくり手を伸ばしてきた。
その指先は、やはり震えていた。





よっぽど、恐ろしい事が遭ったのだろう。
可哀想だなんて思わないが、今のこの姿は彼らしくない。
長い間見て来たどの姿でもない。自分の部屋など、安心できる場所でのみ見せるものなのか、或いは初めてなのか。
どこへ行くかと聞いても返事はなく、家の前まで来たが降りることは無かった。
或いは家の者を呼んでやれば良かったのだろうが僕の手を掴んだ彼がそれを許さなかった。
縋るような目で一瞬こちらを盗み見て目線を逸らすと、小さく、でも確かに「助けて」と口が動いた。










「どうぞ。」

シャワーでさっぱりした筈なのに、どんよりとした雰囲気を漂わせながら座っている。
雨に打たれたように見えて、怒りと無力感のジレンマに苛まされた昔の自分に重なる。

「警察署にも泊まれない理由はなんですか。」

「…それは…」

芹沢が口籠る。言いにくいのならそれでもいい。
大体察しはついている。
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