参画物部屋

□蓋をした感受性
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「御村くんって変わってるよね。」

そういう山田も変わっている部類に入ると思った。



純粋であるというのは分かる。価値観は違えど俺も同じくらい清らかだろう。
…純粋に見えない?それは単に君の心が曇っているんじゃないか?
ちゃんと勉強して、運動して、趣味もあって、適度な悩みごともある。
まさに、青春。青い春、青い、春。

「青春とはこの事だ。」

そう呟いた成瀬に、彼には他人の心の声を聞く能力があるのではないかとたまに思う。

「別に貴方の思考を読み取ったわけではありませんよ。単に、思考が言葉に出ていただけですから。」

「どこかで聞いたことあるけど、それ何でした?」

「思い出せませんが同感です。」

何故思考が声に。
思案する俺にかまわず、成瀬は持っていた花の茎を大分短い所で切ってしまった。

「あ。」

「なんですか。」

「随分短く切りましたね。」

「目立たせようと思いまして。」

同じ花を幾つも、短く切って行く。何本も、何本も。
こう言っては何だが、彼の作品はいつも、心臓に悪い。
伝わりにくいかもしれないが、他に何といっていいのか分からない。



こないだはキクの花を貰ったからとここへ持ってきて、どうしたものかとこれまた思案している内に1つの花を取ってバラバラにした。
曰く、

「キクって集合花でしょう。だから個々の為に分解したんですよ。」

そもそも沢山の花が集まって1つの花に見えているので、そのままでいい筈なのに。
何故バラす必要があったのかは分からない。
そんなことをしてしまえば、きっと浮いてしまってどうにもならないと眺めていた。
しかし彼はそのバラしたものを剣山の先に1つ1つ刺していくではないか。

その後、草木を立たせることがイコール活けることではないと分かってもらうのにはかなりの時間を要した。
通常の動作として、まず植物を切って、立てる。
それ抜きには始まらないから。彼の行動はある意味筋が通っている、ように聞こえるのだ。
或いは彼がそれこそ活きていると思うのなら正解なのかもしれないが。
出来あがったそれについて感想を尋ねた所

「殺されてますね」

と答えた。生け花で殺してどうする。
だから彼は間違っていると気付くことが出来た。
仮にあれで活かしたつもりなら、もう俺にはその謝った認識を正す事は出来なかったかもしれない。



「御村くん。やはり主張が激しいですよね。」

「え…?俺、また声に?」

「何のことですか。フリージアが喧しいので、もう少ししとやかにさせたいのですが。」

「あ…そう。なら、減らしてみたらどうですか。」

敷き詰めるくらい埋めたら、喧しくもなるだろう。
彼の言う「喧しくなくてしとやか」は恐らく、花の絶対数を減らせば解決する。
数をそのままに密度を下げて広げてみた時、彼は「今度は威嚇ですか」とのたまった。
分からなくもないが、誰よりも難解な表現をする人だと思ったのは確かだ。
山田の素直さ故にやらかす数々の出来事も心臓に悪い。
成瀬さんの歪曲さによって起こる出来事も心臓に悪い。
彼らを足して割ることが出来たらいいのに、と驚く度に思った。

「これでどうですか。」

数を控えめにしたらいいとは言った。だからといって、1本しか残っていない。
1つほしいだけだったのなら、初めの時点で何故気付かない。

「それは、活きてるの?」

「…健康ではありませんが。」

かろうじて、殺されていないようだ。それなら良かった。

「それなら、いいと思う。」

彼の感性はよく分からない。
じいさんが、活けたのを見たらどんな人かよく分かるって言ってたけど俺にはまだ出来そうもない。
作品を見て、その人がどんな人で、どんな気持ちで向かっていたのかなど。
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