10000hit企画A

47.合鍵
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合鍵





この春俺達は揃って卒業した。
そして俺は国大に進学、総悟も地元の大学に進学する事になり、幼い頃から一緒だった俺達が初めて別の学校に行くことになる。

(少しは寂しがってくれんのかな、とか)

思うだけ無駄かもしれないけど。
二年前に友達以上の関係になり、体も重ねてのだから出来れば心も重ねたいとか思うのは俺だけなのだろうか。



「ぼんやりしてどうしたんですかィ?」

ベッドに座ってぼんやりと掛けてあった制服を眺めていると、ゲームを漁っていた恋人に声を掛けられる。
やっぱり変わらないな。
床にコントローラーのコードが散乱していた。

「いや…もう着る事はねぇんだな、と思ってよ」
「アンニュイな気分に浸ってるとこ悪いんですが、これの説明書何処ですかィ?」

お前がぐちゃぐちゃにするから分かんなくなるんだろ、と探すのを一緒に手伝う。
そもそもこれを最後に使ったのもお前なんだけど。

「あ、あった」

結局他のゲームにくっついていた。
なんだよそれ。
しょうがねぇなぁと笑ってまたベッドに座る。
何気なくポケットに手を突っ込むと、総悟が来る前に入れておいた物が手に触れ冷たかった。
いつ渡せるんだろう。
そもそも素直に受け取ってくれるのだろうか。
無くさずに持っていてくれるのだろうか。
様々な考えが過り、俺の判断を鈍らせた。

「あれ?またぼけっとしてらァ」
「ん?あぁ悪い」
「勉強のし過ぎでおかしくなったんじゃないんですかィ」

けらけら笑う総悟が急に恨めしく思えて、その薄い体を抱き締める。
突然の俺の行動に驚き、抵抗する事もせずむしろ腕を回され受け入れてくれた。
子供をあやすように背中をポンポンと叩かれてしまっては何ともバツが悪く、肩口に顔を埋める。

「ほんとどうしたんですかィ?アンタさっきからおかしいですぜ」

おかしいと言うなら大分前からおかしかった。
コイツに惚れ込んでからの俺はおかしい事ばかりだ。
それでも諦めきれずやっとの思いで、思いを伝えると思った以上に軽い言葉が返ってきて拍子抜けしてしまった二年前。
それでも今、一緒にいれる事が嬉しくて仕方ない。

「オメェ寂しいとか思わねぇの?」
「はぁ?」
「もうご近所さんじゃなくなんだぞ」

今までは何も思うことなく毎日のように会ってはふざけ合い、楽しく過ごしてきた。
そんななんてことない毎日が今思うとキラキラと輝いてみえる。
そんな日々が永遠に続くんじゃないかと漠然と思ってしまっていた間抜けな自分がいた。

「アンタの顔を毎日見なくて良いと思うと清々しまさ。それに…そんなに遠くないじゃねぇですか」

遠くはない、が近くもない。
その距離感がどうしようもなく不安になるのだ。

「アンタはアンタのやりたい事やって俺は俺のやりたい事をやる。昔からそうじゃないですか」

そう言い切った総悟はどこか大人びていて。

「あぁ…」

未だ拭えきれない何かを持ったまま、そのまま強く総悟を抱き締めた。

「いてて…キツいって」
「好きだ」

耳元で囁くと調子狂うから止めろ、と軽口を叩く。
あぁ、こういうやり取りが好きだった。
ゆっくりと体温を離して、ポケットに手を突っ込むとさっきまで冷たかった物が暖まっていた。

「無くすなよ」

そう言って総悟の手に置くと、少し驚いたように笑った。

「気が早ぇなぁ」
「ウルセー」
「しょうがねぇから貰ってやりまさァ」

眺めてからそれをポケットに入れるとニヤリと笑った。

その顔がやっぱり好きだなぁと思った。



(アンタが寂しがってくれるから寂しくはない。)





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