その他ゲーム系
□膝小僧
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「……っはは、なんだ…お前か…」
安堵のせいか、思わず笑ってしまった。
それは、お化けでも物の怪も何でもなく、純也だった。
俺の恐怖を知らずに、それはなんとも安らかで穏やかな表情を浮かべて、眠っている。
恐らく、こうだ。
オネショなど出来はしないと、僅かにあるプライドを奮い立たせてトイレに行ったものの、自室に戻るまでそれは続かず、トイレから一番近くである、俺の部屋に駆け込んだのだろう。
その一挙一動が、俺は容易に想像がついた。
「人騒がせな奴だな…」
あれだけビクビクしていた自分が馬鹿らしく、恥かしかった。
その羞恥を隠すつもりで、純也の小さな鼻をピンと爪弾いた。
「むっ…ぅ……にい、さん……」
一瞬、顔をしかめてそうモゴモゴと口の中で呟いた。
起きたか?と思った瞬間、
「!お、おい純也……!」
離れるどころか、更に純也は俺の方へと擦り寄ってきた。
胸の辺りに顔を押し付けて、小さな手で俺のパジャマを掴む。
純也の膝小僧がぶつかったと思うと、足が絡みついてきた。
こ、これはダメだ!!
お、俺の足が純也の股に、見事に挟まれている。
つまり、俺がちょっと足を動かせば、純也のあそこを擦り上げることになる訳で…。
もはや、純也のことを弟以上の存在で見ていた俺にとって、この体勢は実に危ない!!
特に俺の理性が!!
離そうと試みるが、純也はまるで微動だにせず、それどころか、離そうとすればするほど、俺の胸に頬を摺り寄せ、
「…っ、や…んぅ…」
と小さな声を上げた。
これ以上、何かをしても、悪戯に俺の理性を追い詰める状況にしかならないことを悟る。
静まれ、静まれ…と、今度は別の意味でドキドキと高鳴りだした心臓を必死に落ち着かせた。
冷静さをなんとか取り戻しながら、胸元にいる純也を見る。
そのあどけない、幼い寝顔。
髪に顔を埋めれば、子供独特の日向のような匂い。
俺よりも高い体温。
ギュッと抱き締めればすっぽりと、両腕の中に収まる小さな体躯。
こんな子供が、本当に大人になるのだろうかと不思議になる。
大人になった頃、俺はきっとこうして、純也を抱き締めることなど出来なくなっているのだろう。
怪談話で怯え竦み、兄を頼ることなどなくなるし、何より、「兄弟」で「大人」の自分達がこんな風に一緒に眠るなんて。
そう思うと、急に今この一瞬が、とても素晴らしい一時ではないのかと気付いた。
二度と、訪れるはずでないであろうこの時間。
俺はその貴重な体験をしっかりと思い出として刻むために、目を閉じた。
視界が閉じられたことで、より一層、純也の体温が鮮明に感じられる……。
俺は、純也と俺の境目が曖昧になるような気分になりながら、再び眠りについた。