その他ゲーム系
□膝小僧
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「兄さん、ちょっと良い?」
ドアを開けて、兄を見つけての開口一番、そう言う純也。
その一言から始まる場合の続きがどんなものなのか、もはや俺には、大体予測することが出来た。
俺の探究心を刺激するような、奇妙にして奇怪な事件の粗筋、そして、それに対しての意見や参考を求める言葉が、ほぼ九割の確率で続く。
今日も、その予測が外れることはなかった。
「そうだな…こんな話がある」
狭い室内にある向かい合わせのソファに腰掛け、純也にも座るよう促す。
膝を付き合わせるような格好になってから、事件に関連性のありそうな都市伝説や怪談を、学生達が聞いている時よりも熱を込めて語り始めた。
なにせ純也は、講義を聴きに来たにも関わらず、「そんな荒唐無稽な」と文句を言ったり、その集中力は90分という講義時間内持続させることが出来ずに眠りについてしまったりする学生たちよりも、遥かに集中して、そして、熱心に耳を傾け、その解釈や疑問もすぐに口に出してくれる。
怒る手間もないし、何より、話し手として心地良い。
純也は、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、能弁に話す俺と手帳を交互に見ながら、忙しく手を動かしては、メモを取った。
「なるほど…ちょっと此処で、まとめさせてもらっても良い?」
「あぁ、お前一人なら何の不都合もないからな」
俺の言葉に、純也は一瞬、ゆうかくんや羽黒くんを思い浮かべたのか、小さく笑った。
そして、改めてソファに腰掛けなおし、メモと事件の資料を照らし合わせだした。
俺は、そんな純也を見つめながら紫煙に火をつけ、その姿をじっくりと見つめる。
『昔はこんな風に、自分から聞きに来るなんてなかったのにな……』
不意に、頭の中にかつて子供だった純也の姿が浮かんだ。
今よりずっと小さく、筋肉がなく、頼りない表情ばかり浮かべていた子供。
あの時、まさかこんな風に成長して、こんな奇奇怪怪な事件を担当する刑事になるなんて予測どころか想像も、できなかった。