その他ゲーム系
□縛
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木製の廊下に響く靴音は、決してその歩幅を乱すことはなく、まるで距離を測りながらに歩いているようにすら感じる。
規則正しい靴音が止まると同時に、模範的な間の置き方でドアが二回ノックされた。
入室を求める合図に、どうぞと一言だけかける。
乱暴で急いでいるなどではなく、かと言って苛立ちを感じるほどのゆっくりさでもない速度で、ノブが回されドアが開かれる。
全てが呆れるほど型通りで、面接試験を受ける際に見せられたビデオを思い出す。
入室して来た人物は、神経質とも言える行動とは裏腹に巨体を揺らし、上司でもない俺に敬礼をした。
「お忙しいところ、失礼するであります!」
野太い声が発せられると同時に、室内の陰鬱とした空気が一散するのが分かった。
吸いかけの「紫煙」を灰皿に押し付けると、少しの間だけゆらゆらと煙がうねり、やがて消えた。
「俺は君の上司でもなければ、敬礼をされるほどの身分にいる訳でもない。だから、もう少し肩の力を抜いてくれないか、小暮くん」
「いえ、霧崎先生は風海警部補のお兄様です。上司である先輩のお兄様ならば、お兄様もそれと同等の…」
「今日は何か用があって来たんじゃないのかい?」
「あぁ、そうでした!うっかり忘れるところでありました」
長談義に付き合う気は毛頭ない。
本来の目的を思い出させるように声をかけると、話を中断し、改めて小暮くんは俺に向き直った。
「用というのは、先輩…風海警部補についてなのですが」
「…純也の?純也がどうかしたのか」
「はあ…その、先日ある事件を解決…しまして」
解決のあとに、少し間が開く。
純也たちが扱う事件はいつもそうだ。
これが本当に解決なのか、それともまだ真実が隠れているのか。
書面上の言葉など全く意味はなく、奇妙なわだかまりだけを残し続ける。
小暮くんもそう思っているからこそ、そうした言い方をするのだろう。