FF駄文

□聖なる夜に、祝福を
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『今日ぐらいは、リディアの気持ちに応えてやってもいいと思うぜ?お前だって、あいつの事をちったぁ特別に想ってんだろ?』

エッジが言ったように、彼女を大切だと、心から思っているから。
俺はソッとリディアの傍へと歩み寄る。
そしてリディアの顔を覗き込んで、自分が出来る限りの、優しい笑みを浮かべた。

「…リディア。」

「ふぇ!?」

別段気配を消したつもりはないんだが、家族連れに気を取られていたリディアは間近で聞こえた俺の声に、奇妙な声を上げる。
そして俺の方へと向き直ると、目を丸くして頬を赤らめた。
…不覚にも、そんな姿を可愛らしいと思ってしまって、胸がドキリと音を立てる。
速くなる鼓動のせいで中々言葉が出てこない俺に、リディアが焦ったように話しかけてきた。

「あ、あ……こ、こんなとこで止まってちゃ寒いよね!えっとえっと…ど、どうしよう?や、宿屋に戻る?」

何も言わない俺に不安を覚えたのか、リディアはあたふたしながら問いかけを口にする。
リディアを慌てさせてどうする。
俺は鼓動を落ち着ける為に咳払いをし、再び出来る限りの優しい笑みを浮かべた。

「…俺とは一緒に、回ってくれないのか?」

「…え?」

宿屋に戻るかと問うリディアに、若干意地悪な問いかけを返す。
するとリディアはキョトンと瞬きをして、俺をジッと見つめてきた。

「俺は、リディアと街を回りたいんだが…リディアは、宿に帰りたいか?」

「…!」

意地悪な問いかけの中に、自分の素直な気持ちも織り交ぜてみる。
するとリディアは、パチパチと瞬きを繰り返した後、花も綻ぶような笑顔を浮かべた。

「ううん!あたしも…あたしもカインと一緒に街を回りたい!」

拳を握り、大きな声でそう告げるリディアに、またもや俺の胸が大きな音を立てる。
俺の言葉1つで喜ぶリディアに、心の奥底で愛しいと思う気持ちが湧き上がった。

「そ、そうか。それはよかった。なら、少し街中を歩いてから、どこかで飯でも食うか。」

「うん!」

そう告げると、リディアは嬉々として大きく頷く。
だが俺が手を差し出すと、リディアはキョトンと目を瞬かせ、すぐに困ったように眉を寄せた。

「…カイン……。」

「…はぐれたら、困るだろう?」

躊躇うように名前を呼ばれ、一瞬嫌なのかと不安を覚える。
だがその不安は、リディアが辺りをキョロキョロしだした途端消し飛んだ。
…きっと、手を繋いで歩いている所を誰かに…ローザに見られては、と思っているんだろう。

「…でも、ローザに見られたらカインが困るよ…。」

思った通りそう言ったリディアに、温かな気持ちが胸に広がる。
自分の想いよりも俺の事を考えてくれる少女が、何よりも愛しく思えて。
俺はリディアの手を取り、その手をリディアの目の前まで上げてみせた。

「…困らないさ…。…俺と、手を繋ぐのは嫌か?」

…我ながら、ずるい問いかけだと思う。
それでもリディアの口から聞きたかった。

「いっ嫌じゃない…!!あたしは、その…繋ぎたい、けど…。」

俺を想っているのだと思える言葉を。
そして、今はまだ想いを告げる事が出来ない俺の、精一杯の言葉を聞いてほしかった。

「…俺も、繋いで歩きたいんだ。」

小さく呟いたリディアに俺もそう返事を返して、上げたリディアの手に指を絡める。
そしてそのまま、絡めた指にギュッと力を込めた。
途端俺の頬にカッと熱が宿り、顔が赤くなっているのだろうと自覚する。
…かなり恥ずかしいが、それでも。
少しでも、俺の気持ちが伝わるようにと願いを込めたかった。
リディアは繋いだ手を驚いたように見つめ、すぐに上目遣いで俺を見つめる。
そして俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、嬉しそうな笑みを浮かべて俺の手をギュッと握り返してくれた。

「…うん…そだね!はぐれたら、困るもんね!」

周りに聞こえるような大きな声に、思わず苦笑が零れる。
今はもう、彼女に見られて困る事など本当に何もないというのに。
…否、完全に吹っ切れるまで想いを伝えようとしない俺が悪いのだ。
だからこそ、リディアは……。


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