FF駄文

□聖なる夜に、祝福を
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「わぁー!すごく綺麗!」

月から地球へと戻った俺達は、一番の大国だからとバロンへと来ていた。
夕闇の中光るクリスマス一色のイルミネーションに、リディアが感激したようにハシャいだ声を上げる。
バロンでいいのかと心配していたが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。
リディアはキョロキョロと辺りを見渡しては嬉しそうな声を上げ、見ているこっちまで微笑ましい気持ちになってくる。
見ればセシルとローザも微笑ましいといった感じでリディアを見つめていて。
渋りはしたものの、街に戻ってよかったと心底思った。

「さってと……ほらほら、何やってんだ!カップルはとっととどっかに消えろってんだ!」

そう思った矢先、エッジがセシルとローザの背をぐいぐいと押し出す。
…王子様なりの気遣いなんだろうが、いきなり追い払われるように押し出された2人は、困惑したように顔を見合わせている。
するとリディアもにっこり笑って、セシルとローザに話しかけた。

「そうだよ!今日ぐらい、2人で楽しんでおいでよ!あたしたちは3人で楽しむから!ね?」

「目の前でいちゃつかれるよりはいいしな。是非そうしてくれ。」

続いて俺もそう言うと、セシルとローザはほんのりと頬を染めて俯く。
ここまで言えば、2人も気兼ねなく抜け出せるだろう。
俺がそう思うと同時に、セシルは顔を上げて照れ笑いを浮かべた。

「ははは…だ、だったらお言葉に甘えようかな…あんまり気を使わせても悪いしね。」

「そーしろそーしろ!今日は宿屋に泊まるし、ゆっくりしてきていいぜぇ!」

「…カインがいるなら大丈夫そうだし…そうね。」

「!俺じゃ信用ならねーってのかよ!」

「リディアの事に関してはね。」

からかうように笑うエッジに、ローザが頬を染めながら仕返しとばかりに口を開く。
思わぬ反撃に口を噤むエッジ。
余計な事を言うからそんな目に遭うんだ。
寄り添うように離れていく2人を見送り、昔ほど胸が痛まない事実に穏やかな気持ちが湧き上がる。
少しは、あの2人を祝福できるようになったんだな…。
さて、これからどうしたものか。

「んじゃ、口うるさいのもいなくなった事だしよ、こっからは自由行動な!」

「は……。」

3人でどこを回るかと考え始めた俺の耳に、信じがたい言葉が入る。
見ればエッジは普段見せない優しげな笑みを浮かべていて、俺は思わず言葉を失った。

「えっ!?3人で回るんじゃないの?」

エッジの言葉に、リディアも眉を下げて困惑している。
するとエッジは、優しげな笑みを浮かべたままリディアの前へと屈み込んだ。

「せっかくの聖夜だぜ?楽しまなきゃ損だろが。…可愛い子の笑顔も見たいしな!」

「…!!」

「もー何よそれー!」

エッジの言葉に、目を見開く。
可愛い子の笑顔――それは他の誰でもない、リディアの事だろう。
その証拠に、奴は今まで見た事がないほど優しい目でリディアを見つめている。
リディアに淡い想いを抱きながら、それでもリディアが俺を…特別に想っている事を知って今日という日を別々に過ごすというのか。
……他ならぬ、リディアの為に。
俺は彼女の想いに気付きながらも、何もしてやれていないというのに。
驚いて固まっている俺に、エッジがスッと視線を向ける。
そしてスタスタと俺の方へ歩いてきたかと思うと、そのまま小さな声で耳打ちされた。

「…お前も複雑な心境だろうけどよ、今日ぐらいは、リディアの気持ちに応えてやってもいいと思うぜ?お前だって、あいつの事をちったぁ特別に想ってんだろ?」

「…!やっぱり、お前…。」

「へっ…んじゃ!俺はバーにでも行ってくっかな!普段はお子様がいて入れねーからな!」

「むっ!お子様って誰の事よ!」

「わかってんじゃねーか!…迷子にならねーよう、カインにしっかり掴まっとけよ?じゃな!」

エッジはそれだけ言うと、片手を上げてその場から走り去る。
バカー!と叫ぶリディアの声を聞きながら、俺はあの王子の器の大きさに改めて感心した。

「何よぅ!ほんっと失礼しちゃうんだから!」

頬を膨らませるリディアを、チラリと横目で窺う。
むくれながらも彼女はどこか嬉しそうで、その頬は赤く染まっていた。
その表情に、僅かに胸の奥が締め付けられる。
初恋だった…ローザへの想いを完璧に断ち切るまでは、この少女に必要以上に近付いてはいけないと言い聞かせてきた。
中途半端な状態では、彼女をきっと傷付けると思っていたから。

「あ………。」

そう思いを馳せていると、不意にリディアが小さな声を上げる。
何事かとリディアに視線を戻すと、リディアは家族連れを見つめていた。
その表情があまりにも寂しげなもので、俺の胸がズキリと痛む。
そんな顔は、してほしくない。
出来るならばいつも、笑っていてほしい。
この気持ちは、罪の意識から出たものじゃない。


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