FF駄文

□聖なる夜に、祝福を
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賑やかな街の様子に、キラキラと輝くお前の横顔。

それでも時折見せる寂しそうな表情に、胸の奥がズキリと痛む。
そして痛みと共に、そんな顔をさせたくないと心から思った。


償いだとか、そんな類いの気持ちではない、確かな想い。


だが未だに初恋の想いが微かに残っている俺が、それを告げる事はできない。


それでも、お前には笑っていてほしいと。

願う事ぐらいは、許されるだろうか――…。





聖なる夜に、祝福を





「なぁ、今日と明日ぐらいはよー、休まねーか?」

その日の朝、突然王子様が朝食の席でそう言った。
…急に何を言い出すのか。
どうやらそう思ったのは俺だけではなく、セシルやローザも王子様に視線を向けてキョトンと首を傾げている。
リディアなど、パンを頬張ったままパチパチと瞬きを繰り返していた。
王子様ことエッジの、突然の意味不明な発言は今に始まった事ではないが、それにしたって理由も言わずにこんな事を言い出すのは珍しい。
俺達全員がキョトンとしたからだろう。
エッジは眉を寄せて俺達の顔を見回した。

「おいおい…まさか、今日明日が何の日かわかってねーんじゃないだろうな?」

「……今日と明日?…えっと、今日って何日だっけ?」

呆れたように問うエッジに、セシルが顎に手を当てて日にちを思い出そうとする。
だがセシルが答えを導き出すより先に、焦れたエッジがその答えを口にした。

「だあぁ!マジかよ……。今日明日はクリスマス・イブとクリスマスだろ!?カレンダーぐらい見ろよなー。」

そう言いながら、エッジが懐から取り出したカレンダーを俺達に突き付け、今日と明日の部分をトントンと指で叩く。
ご丁寧に○印までつけてあるそのカレンダーに、どれだけこの日を楽しみにしているんだと思わず心の中でツッコミを入れてしまった。

「あぁ、もうそんな時期なのか。」

「ずっと月で戦ってたから、ちっとも気付かなかったねぇ。」

セシルとリディアがノホホンとそう言うと、エッジは自分の額を軽く叩いて大袈裟にため息を吐く。
そしてローザへと視線を向けて、若干憐れむように再度口を開いた。

「こんな彼氏だと、ローザも寂しいもんだよなぁ。イベント事ぐらい覚えとけってんだ。」

「…仕方ないわよ、ずっとレベルを上げる為に戦ってたんだし。それに、私だって忘れてたもの。」

ローザはセシルをフォローしながらも苦笑を零す。
するとエッジも苦笑しながら、大仰にため息を吐いた。

「ダメだぜーローザ。こういう時ぐらいしか恋人らしい事出来ねーんだからよ。ってわけで、どっか街に戻ろうぜ!」

「え…でも…。」

「何を言い出すんだ、俺達にそんな時間はないだろう。」

戸惑うセシルに代わって俺がそう言うと、エッジが若干ムッとした表情で俺の方へと顔を向ける。
だがその表情は俺のすぐ隣に視線を向けると、ニヤリとした笑みに変わった。

「相変わらずおカタイねぇ。でもよ、隣を見て、まーだそんな事が言えっかぁ?」

何をニヤニヤしているんだと思った俺に、間髪入れずにそう告げる王子様。
何だと隣を見やれば、そこにはキラキラと目を輝かせたリディアがいた。
こ、このパターンは……。

「そっかそっかぁ!クリスマスなんだぁ!いいなぁ、街に行きたいなぁ。あ、でも、我が儘言ったらサンタさん来ないかなぁ…。」

ウキウキしながらも考え込むリディアに、セシルとローザが顔を見合わせる。
…それにしてもサンタときたか。…随分、可愛らしい事を言うもんだな……幻獣界では、あのリヴァイアサンやアスラがサンタに扮して、プレゼントでもやっていたんだろうか…?
俺がくだらない考えを脳裏に浮かべていると、エッジがいつの間にかテキパキと帰り支度を始めていて。
次いで、セシルとローザが大きな音を立てて席から立ち上がった。

「…そうだね!…そろそろ必要物資も買いに行きたいし街に戻ろうかリディア!」

「…たまには、休息も必要よね!」

「え!?本当!?いいの?」

……やはりそうなるのか。
俄然張り切ってそう告げるバカップル兼親バカに、リディアが満面の笑顔を浮かべる。
ふぅ…と肩を竦めた俺の視界に、ニヤニヤと笑う王子様の姿が。
こうなる事がわかっていたと言わんばかりの笑みを見て、俺はドッと疲れが溜まったような錯覚に陥った。


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