FF駄文

□precious a sensation
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魔導船で過ごしていたある日の朝。
目を醒ましたリディアは、船内に漂う甘い匂いに首を傾げた。
匂いの元はキッチンの方からだ。
その匂いに釣られるように、リディアはキッチンへと向かう。
そこには男子禁制!と書かれた紙が貼られており、中には美しい白魔導士、ローザがいた。

「おはようローザ!何してるの?」

リディアが挨拶をすると、作業に没頭していたローザが顔を上げる。
そしてリディアの姿を見つけると、にこやかに微笑んで挨拶を返した。

「あらおはようリディア。今日は随分早起きさんね。これから、チョコレートを作るところだったのよ。」

「チョコレート??」

そう説明をするローザに、リディアはキョトンと首を傾げる。
そしてトタトタとローザに近付き、首を傾げながらローザの手元を覗き込んだ。

「…?どうしていきなりチョコレートを作ってるの?」

「今日はバレンタインっていってね、想い人やお世話になってる人や仲良くしている人に、チョコレートとか贈り物をする日なのよ。リディア、朝食用意してあるから、早く食べていらっしゃい。」

不思議そうなリディアに優しく微笑みかけ、ローザは再び作業を再開する。
リディアははーいと返事をしながら、キッチンを出ようと歩き始めた。

「……ねぇローザ、あたしもチョコレート作りたい。」

だが途中でピタリと足を止め、窺うようにローザを振り返る。
ローザは一瞬だけ目を見開き、すぐに慈しむような笑顔を浮かべた。

「そうね…材料はあるし、私が教えてあげる。」

「本当!?」

「ええ。あっ、でも包むものがないわ…。誰かに個別に贈るの?」

パアッとリディアが顔を輝かせた途端、ローザが困ったようにキョロキョロと辺りを見渡す。
再びリディアはキョトンとして、ローザの言葉を繰り返した。

「…?こべつ…って?」

「誰か1人にって事よ。」

「うぅん、みんなに贈るの。」

ブンブンと首を横に振り、にっこりとリディアがそう告げる。
するとローザは大きな器を取り出して、それをリディアに差し出した。

「じゃあこれに入れて、おやつに出すって事でもいいかしら。リディアが作るって言うと思ってなかったから、包むものが足りなくって…。」

「?よくわかんないけどいいよ!じゃあご飯食べてくるね。」

申し訳なさそうなローザにもう一度笑顔を向け、リディアがキッチンを後にする。

「フフッリディアからチョコレートをもらえるなんて、みんな喜ぶわね!」

足取り軽く出て行ったリディアを見つめながら、ローザはどこか嬉しそうにそう呟いた。


◇◆◇◆◇


朝食を終えてからセシル達にはローザがうまく言って、リディアはローザとチョコレートを作った。……………が。

「……ローザが作ったのと全然違うね…。美味しくなさそう…。」

2人の目の前には、まるで握り潰したような焦げ茶色の物体(チョコレートだがチョコレートに見えない)があった。
リディアが作ったチョコレートは、お世辞にも美味しそうには見えない。
トリュフを作ったのだが、綺麗な球体どころか抉れたようにでこぼことしたチョコレート達。
リディアはシュンと落ち込んでしまい、ローザはあたふたと何とかフォローを入れた。

「み、見た目よりも味よ、味!分量はバッチリだったし、味は大丈夫なはずだもの!」

「本当にそう思う…?」

ローザの言葉を聞いて、リディアが上目遣いにローザを見つめる。
ローザはにっこり笑って力強く頷くと、リディアの頭をそっと撫でた。

「ええ、もちろん!きっとみんな、喜んでくれるわよ。さぁ、みんなの所に行きましょう?」

ローザに促され、リディアはドキドキしながら器を持ってキッチンへと向かう。
娘のようにリディアを可愛がるセシルに、リディアに恋心を抱いているエッジと、実はすごくリディアを気にしているカインの3人が食べるのだから絶対に喜ぶはず…とローザは信じて疑わなかった。
彼らの中に、素直になれない天の邪鬼がいる事を忘れて――…。


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