捧げものC
□All is fair in love!
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それは、本当に突然だった。
いつもなら少し離れた場所で食事を摂り、チラチラと互いを見つめていた神田とミランダが。
何故かいきなり同じテーブルで食事を摂っていたのだ。
しかも、互いに顔を僅かに染めて。
それを見た人々のほとんどが、やっとくっついたのか…と察し、初々しい2人を祝福する気持ちを持ったのだが…。
それとは全く真逆の気持ちを抱いた者もいた。
無愛想で優しさの欠片もないあんな男に、聖女のように清らかで優しい彼女は似合わない――。
そう思った人物は、1人、2人ではない。
そこで彼らは集まって、ある計画を練り出し始めた。
それが、どれ程危険を伴うかを考えもせずに――。
All is fair in love!
2人が付き合い始めた事が知れ渡った翌日――。
アレンはいつものように、リンクの監視の元、書庫で書類を記入していたのだが…。
2人が醸し出す空気は、まるで重力が何倍かになったかのように重いものだった。
「……まさか、ミランダが神田なんかを選ぶなんて…………。」
ペンを放り出し、アレンは机に突っ伏して重いため息を吐く。
するとそのセリフにピクリと反応して、リンクが青白い顔でアレンを睨み付けた。
「…………言葉にしないでもらえませんか。」
「だって!溜め込んでたら爆発しそうなんですよ!!あんな…あんな奴にミランダが……うわああああぁんっ!!」
震える声で告げたリンクに、普段の紳士っぷりからは考えられない勢いで、アレンが机に突っ伏して子供のように泣き声を上げる。
それにつられたのか、リンクもまた目元を押さえてアレンの横に座り、深いため息を吐いた。
「…気持ちはわかりますが…仕方ないでしょう、彼女が彼を…」
選んだのだから、と言いたくないらしく、リンクが言葉を濁す。
だがリンクの言葉の続きを察したアレンは、魂が抜けたかのように呆然と涙を流した。
「……何で神田なんだろう……僕の方が早く出会ったし、僕の方がぜっっったい優しいのに…。」
「出会いの時期など関係ないでしょう…しかし、確かに何故神田ユウなんかを…。」
思いっきり失礼な事を言いながら、2人が再び重いため息を吐く。
すると、突然2人の後ろからニュッと手が伸びてきて2人の肩に誰かがのし掛かってきた。
「「!!?」」
「…やっぱそう思うよなぁ…何でよりによってユウなんさ……。」
聞き覚えのある声と口調に、2人が涙を流しながら振り返る。
すると至近距離に、悔しさのあまりか涙を滲ませてどんよりとした表情のラビがいた。
「ラビ……。」
「君もやはり納得してないんですね…。」
普段ならば暑苦しいやら馴れ馴れしいやらと追い払う2人だが、弱っている事に加えラビの気持ちがよくわかり、されるがままになっている。
ラビはリンクの言葉に滲んだ涙を撒き散らしながら、声を大にして叫んだ。
「納得いくはずねーじゃん!!あんな冷血漢にミランダをかっさらわれるなんて!!」
耳元で叫ばれてアレンとリンクは顔をしかめるが、やはりラビの気持ちがわかるのか押し黙っている。
叫んだ途端気が抜けたのか、ラビもアレン達同様どんよりとした空気を出して深いため息を吐いた。
「…これがせめてマリとかリーバーさんなら祝福出来たのに…。」
「…ユウの何がよかったんさ…。」
「…信じられませんが、噂によるとロットーから想いを告げたそうですよ…。」
「「「…ハァ……。」」」
やはり神田に対して失礼な事を言いつつ、3人は同時にため息を吐く。
何をどう言おうとも、所詮は負け犬の遠吠えに過ぎないのだ。
あの2人が別れるまで、こんな鬱々とした気持ちが続くのか…。
「…そう思うならば、ミランダ・ロットーを取り戻せばいいでしょう。そうして腐っていても、何も始まりませんよ。」
3人が再び深いため息を吐こうとすると、それより先に威厳のある声が3人にかけられた。
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