長編

□『運命』第六章
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『メリィクリスマス!!』

ホロホロがクラッカーを勢いよく引っ張るとパァンッという音が鳴った。


「ったく騒々しいなキサマは。
大体クリスマスはキリストの降誕祭だぞ。
キリスト教でもないキサマが何故祝う必要がある」

ソファーに座っていた蓮はもっともな意見を述べると鼻を鳴らし、
ワイングラスに入っていた牛乳をグイッと一気に飲み干した。

それを聞いたホロホロは、雰囲気にと言って渡したワイングラスを使っているのは、
クリスマスを少なからずも祝っているのと同じじゃないのか、と内心で思った。


「細けェ事は気にすんな!
クリスマスは兎に角楽しけりゃいいんだよ!
‥っていうかグラスぐらいジュースにしろよ」

ホロホロは笑って言っていたかと思ったら苦笑し蓮にツッコんだ。


「牛乳は一日三杯に決まっている。今日はまだ二杯目だ」

「ヘイヘイ」

軽く流すホロホロを後目に蓮はつまらなそうにフンッと鼻を鳴らすと
再びグラスに牛乳パックから牛乳を注ぎ入れこれまたグイッと飲み干した。

そんな蓮をジーッと見つめるホロホロ。
ホロホロの変な視線に蓮は直ぐさま気づいた。


「‥何だ」

ずっとこれでもかって言うぐらいジーッっと見つめるホロホロに怪訝そうな顔で言い放つ。


「‥お前ってさぁスゲェ牛乳が好きみたいだけど、やっぱお前って猫なわけ?」

"猫"とぃう言葉に蓮の耳がピーンと立った。
しかし直ぐに落ち着きはらうが如く元に戻った。


「‥キサマには関係ない」

平生を突っ張る為なのかホロホロに背を向けそのまま黙りこんでしまった。

ホロホロ本人は軽い気持ちで言ったのだが、
予想外の蓮の対応に気まずくなったのを感じた。




部屋に静かな沈黙が続いた後、それを断ち切るかのようにホロホロは『ヨッ』と立ち上がった。

何処に行くのかと蓮が振り返った瞬間、部屋が真っ暗になった。


「なッ!何だ!?」

先程自分が手をつけたグラスを倒して割れては大変と、
ソファーから立ち上がる事も出来ない蓮は声を荒げた。

一瞬頭の中で停電かと思ったが、
窓から夜の光りがカーテンの隙間からうっすら見えていたところから
恐らくホロホロが消したのだろうと蓮はすぐさま察知した。


「ホロホロか!?電気をつけろバカ!」

しかし、ホロホロから反応がない。


「おぃっ‥バカ‥返事ぐらいしろ‥」

返ってくると思った返事が返って来なかったのに驚きを感じた蓮は、
急にホロホロがその場からいなくなったような気がして
自分でも分からないぐらい何度も暗闇の中『ホロホロ』と叫んだ。


「ホロホロ!ホロホロッ!ホロホッ‥ホロ‥」

蓮の声はやがて小さく弱々しくなっていく。
こんなくだらない事でホロホロの名を何度も叫んだ
自分が恥ずかしいと蓮は真っ暗な部屋の中思った。


最近の自分は変だ

気づけばホロホロのことばかり考えてしまう。

もう熱は冷ましたはずなのに、


胸が熱い。


身体全身に熱を感じていると急に優しく後ろから抱きしめられた。


「ホ‥?」

抱きしめられた身体の温もりに安らぎを感じながら暗闇で見えない顔を見た。


「待たして悪かったな」

「‥?」

待た‥?

暗闇の中に綺麗なイルミネーションがポツリと光り輝いた。
見るとそれは60センチ程の小さな白いクリスマスツリーだった。


「綺麗だろ‥まぁ飾り着けはオレがやったから見た目は悪ィけどよ‥」

小さな小さなクリスマスツリーを嬉しそうに見つめるホロホロ。

それは何処か見守るような瞳で蓮は頬を赤らめながらホロホロを見つめた。

そしてゆっくりとホロホロの見つめるクリスマスツリーに視点を変えると


「本当に醜いな」

と鼻で笑いながら言い放った。


「オィッ!」


すかさずホロホロがツッコむ。

二人は顔を見合わすと、同時に笑い出した。


「ククッ‥本当のことを言ったまでだろうが」

「ハハッ‥んだよ、そういうのはウソでも褒めろっつうの」


そう笑いながらいうとホロホロは蓮に微笑み静かに口を開いた。


「‥お前の笑ってる顔初めて見た」

突然の発言と微笑むホロホロに蓮は顔を赤らめて驚いた。


「!そ‥それが‥ど‥どうした‥」

口調までもがしどろもどろになってしまっている。
自分が言った言葉に反応し慌てる蓮が可愛いとホロホロは熱い胸に思った。


「‥いやよ、お前って何かと無表情ってか怒ってる顔ばっかでさ、
笑ってる顔見たことねぇなァって思ったら何か‥スゲェ‥嬉しい‥」

自分の全てを包み込んでくれるような優しい微笑みに蓮は動揺が隠せなかった。

無表情やら怒っている顔と言われるのは、
何時も蓮はホロホロに素直になれずトンガッてしまっていた。

それをホロホロは怒ってる、自分に対して興味がない、と解釈していたのだろうと蓮は思った。

しかし、ホロホロのこの何処か安らぎを感じさせられるような笑みを見ると
素直になってしまう自分がいるとも蓮は思った。


コイツは‥それに気づいているのだろうか


嬉しい‥このホロホロの一言は蓮の心の奥に溜まっていたものを動かした。
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