長編

□『運命』第三章
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蓮が目を覚まし安堵する中一つの問題が発生した。




「おい、オレをココに住まわせろ」



一人暮らしのホロホロは、アルバイトと親の仕送りで何とか今の生活をやっていけているというのに、蓮が此処に住むとなれば大変だ。

ホロホロはかなり困った。
断らなければならない気持ちの中に、出来ることなら断りたくない気持ちが入り混じって。


「住みたい‥って、オレ学校あるしよ‥なんつ―たって二人も住める程の金ねェよ‥」

「アルバイトすればいいではないか」

蓮はフンと鼻で笑う。
それはそうなのだが。

「そう言うけどオメェ‥アルバイトも大変なんだぞ?
店長から頼まれた日なんか睡眠時間削ってやってるっていうのによ‥」

「では‥こんなオレにアルバイトしろと言うのか‥?」


蓮は無表情に尻尾と猫耳を目で指して言った。

蓮のほうが一枚上手みたいだ。


ホロホロはハァ‥っと一呼吸にため息をする。


「それより‥蓮には家族が居ねェのか?‥それとも家出とか?」

すると蓮は、触れて欲しくないと言わんばかりに視線を下ろした。

ホロホロは聞いてはいけなかったと慌てて話を元に戻した。


「わあったわあった。いいぜ。此処に住んでも‥」

ホロホロはソフャーに座っている蓮の隣に腰を下ろした。
体は触れあっていないのに自然と互いの体温が伝わってくるような気がする。


「本当か‥?オレは此処に住んでもいいのか‥?」

蓮の脳裏に『嘘』だったらという気持ちが溢れ、自分で驚く程声が弱々しくなってしまった。
その様子はまるで母猫にすがる子猫。

弱々しい姿を見せられホロホロは蓮に微かに愛しさを感じた。


「あぁ!!」

子猫を安心させるように明るく笑った笑顔に蓮はドキッとしてしまった。

頬が熱い。


「じゃぁ、早速蓮の生活用品を買わねェとな!」

ホロホロは蓮の腕を引くと買い物に出かけようと玄関に向かった。
と、思ったが引っ張ってもピクとも動かない。

振り返ると不満そうに見つめる蓮。


『あっ‥』


ホロホロは原因が分かると周りを見渡しある物を探す。
見つけるとそれを蓮の頭に被せた。
黒いニット帽は上手く黒い猫耳を隠し、頭のトンガリを上手く避けていた。

蓮はホロホロと出会った当初に穿いていたズボンに穿きかえていたのだが、
ホロホロはその中に蓮の尻尾をズボンの隙間から押し込んだ。


中華の服に黒いニット帽というのは見た目は変だが仕方ないと諦め出かけた。

蓮は歩く度に尻尾が足に触れそれが気持ち悪いようで、
眉間に皺を寄せながらホロホロの一歩後ろを歩いた。






「流石土曜日‥人がいっぱいだな‥」

店内に入ると家族連れやカップルなど人で埋まっていた。
何時もは学校の帰りとかダチと来るのでそんなに意識していなかったが、
こんなに人が来るのかとホロホロはため息をする。

ホロホロが蓮を見ると人ごみが苦手なのだろうか蓮の顔は曇っていた。


「蓮、離れるなよ」

と言うと蓮の手を握った。
蓮の顔が一気に赤くなる。


「‥手を握らんでも迷子になどならん‥」

蓮の声が小さかったのか、それとも周りが騒がしいせいか、ホロホロには聞こえていないようだ。
蓮までため息が出る。



「ふ‥ん‥」


ふと尻尾の触れる違和感に、蓮は改めて自分の容姿に思考が吸い寄せられる。


まだ知り合ったばかりだというのに、何故オレは人間のコイツと一緒にいるのだろうか

何故コイツはオレを避けない

何故嫌がらない

何故一緒にいてくれる



オレはこんな醜い姿なのに





「‥ん‥蓮!!」


ホロホロに大声で名を呼ばれ思考が停止した。


「ッ何なのだ!?ビックリするではないか!!」

「さっきから呼んでたっつうの」


呆れ顔で言われ、そうだったのか‥と目をキョトンとする蓮。
その顔が少し可愛いくて、思わず笑みがこぼれる。


「なッ何を笑っている!?」

「わりぃわりぃ‥」

ホロホロは謝ると蓮の機嫌をとろうと思い


「蓮の好きな食べ物って何だ?」

と問いた。
蓮は話題を変えられ少し不機嫌になりつつも『桃まん・・』と答えた。


「よっしゃ!買い物が終わったら桃まん買おうぜ!!」

笑顔で言われ蓮は不意にも見とれてしまった。

蓮はコクッと頷くとホロホロから気持ちを隠すように視線を逸らした。



買い物も終わり何時の間にか曇っていた空も晴れていた。
蓮は両手で桃まんが入った茶色の紙袋を抱えジーッと見つめている。

顔は嬉しそうな感じには見えなかったが、内面ではかなり喜んでくれてるとホロホロは思い、
本当は荷物が重いから蓮に袋の一つを持ってもらおうと思ったが、
そんな蓮を見ると頼みたくても頼めず仕方なく荷物を一人で持った。
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