アビス小説

□九死の先に
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やはり自分がその危機に瀕しても理解出来ない、死。

別段寂しいとも、悔しいとも感じず、ただ事実を淡々と受け入れるだけの自分にいっそ呆れる。

こうして終わる生涯もあるでしょう、と生きることを諦め僅かにあった意識を今度こそ手放した。



ロニールの景色に似た真っ白な空間にジェイドは居た。

いわゆる臨死体験時に聞く"お花畑"がここのことを指すのかと考えに耽っていると、ふと銀髪の美しい女性の後ろ姿が見えた。
生前のネビリム先生によく似たその後ろ姿の女性の正体を確かめたくなり、ジェイドは歩み寄る。

「ネビリム先生?貴方なのですか?」

名を呼んでも返事はない。
まるで聞こえていないかのように、その後姿の女性はただ佇む。
黙々と歩み続け、距離はあっという間に縮まりやがて触れられるまでの距離になると、ジェイドはその女性の肩に手を伸ばしこちらを振り向かせようと掴んだその瞬間、パァ
ッと体が強く輝き思わず眼を伏せるとやがて輝きはあたたかな光になって霧散し、ジェイドを包んでいった。
その光は第七音素に良く似た感覚で。
懐かしさに眼を閉じ、それからゆっくりゆっくり瞼を開く。

朧気に自分を覗き込む人の影が目に映った。

「ネビ…リ…ム先…生…?」

徐々にはっきり見えてくる顔のシルエットがネビリム先生に見えた。
しかしネビリムの故郷の風景にも似た銀髪は神々しい金髪で、別人だと判った瞬間、自分を覗き込んで何かを必死に叫んでいる声を聞いた。

「ジェイド!死ぬな…こんな所で死ぬな!」

曖昧な意識がゆっくりと覚醒し、その声の正体を確かめるように目を見開く。
神々しい金髪が、今にも泣き出しそうに見つめながらジェイドの手を握るガイのもので、ジェイドを包んだあの光はナタリアとティアの譜術による第七音素の光であった。

この深く入り組んだクレパスの中にどうやって潜入したのか。
その理由を知るのは容易なことであった。

「みゅっみゅうぅぅぅ〜!!」
「おいっブタザル!早く降ろせってーの!」
「もー!ルークってば焦る気持ちはわかるけどミュウに文句言わないでよね!ってゆーか〜、掴まるよりそのまま落っこちたほーが早く降りられんじゃな〜い?」
「ば…っざけんな!こんなトコ落ちて無事でいられるかってーの!」

クレパスの上空で騒がしい2人の会話が聞こえる。
どうやらミュウの持つソーサラーリングの力を使ってここまで救出しにきたようだ。

「おい!ジェイドは大丈夫なのか!?」
「ルーク!私たちに話しかけないで下さい!集中力が途切れてしまいますわ!命を育む女神の抱擁…キュア!」
「彼の者を死の淵より呼び戻せ…レイズデッド!」

第七譜術師二人の同時詠唱によりジェイドの体は光に包まれると、みるみる内に出血は止まり、凄惨たる傷口は塞がっていった。
ガイはただそれを固唾を飲み、見守った。
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