アビス小説

□九死の先に
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迂闊…でしたね…。

柄にもなく、ポツリと呟く。

歩けるかどうか、体を動かしてみたが、左脚は折れている。(骨は皮膚から突き出ていた)
右腕には、感覚がない。(ちゃんと胴体からは生えていたが粉砕骨折しているようだ)

何故、自分はこの様な状況下に置かれているのか。

大量に出血を続けクラクラする頭で必死に記憶を手繰り寄せる。

そう、私達はロニール雪山で戦闘中だった。

あまり見かけない強敵に不意打ちをされ、私達はペースを乱されていた。

私を庇うように突き飛ばし、モンスターのその一撃を直に食らったガイが倒れるのを見た私は、怒りのあまり冷静な判断が出来ず詠唱を破棄しモンスターへと駆け出していた



しかし。

その巨躯に似合わず、モンスターはぐるりと背を向けたかと思いきや、自分目掛け猛スピードで太い尾をしなる鞭のように振るっていた。
とっさに反応出来ず、ほぼ無防備なまま衝撃をモロに喰らう。
薙払われ体が宙に浮いた。
落下先は、クレバス。
落ちたらまず、助からない。
仄暗い口をぽっかり開けた裂け目に自分は成す術無く頭から墜ち喰われていった。

記憶はそこで途切れ、そして今に繋がる。
良くクレバスに落ちて生きていたものだ。
通常、突き出た氷の壁に体中をぶつけ、打撲死するものだが。

せいぜい自分は腕と脚の骨折ぐらい。
深く呼吸をしようとした時。
激しくむせかえり、血を吐き出した。
自分の眼と同じ色をした真っ赤な、血。
あぁ一応ヒトと同じ色の血は流れてるんですねぇ

などと考えがよぎると同時に、折れた肋骨が肺を突き破っている事も判った。

緩やかに血液が肺へと流れ、溜まる。呼吸が苦しくなり、咳き込むとゴポ…と血を吐き出す。

このままでいけば、大量出血で死ぬか、肺の中に溜まった血液で溺れ死ぬか、はたまた凍死するか。
いずれにせよ死が目前に控えているには変わらない。

今居る状況からして、仲間が自分を見つけ救援してくれる可能性はゼロだった。
まず見つかりはしないだろう。
ここはクレバスの最深部なのだから。

ずっと咳き込んでいたら、何だか疲れた。
壁に凭れていた体を少しだけ傾け、そのまま体の重みでずるずると横たえる。

瞼が、重くなった。
眠ってはいけないー…
しかし急速に眠気が襲う。
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