緋語り

□Mein Stolz
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 もしも アナタに
 出逢わなければ…

 だけど アナタは
 ボクの誇り



………+ Mein Stolz +……… 



 かつて、色んな物が雑然としていた室内も、積み上げられた段ボールが運び出される度、閑散な雰囲気に変わっていく。

 ここを生活の場としていたドジと呼ばれた超人は、先日、無事にキン肉星の王位を勝ち得て、その星へと活動の場を移そうとしていた。

 喜ばしい事で望んでいた事ではあるのだけれど、淋しいと感じてしまうのは まだ打ち明けられていないボクの決意のせいだろうか。

 彼が王位を得た瞬間、ボクには決めた事がある。それを言おう言おうと思いながらも、まだ、もう少しとズルズル先延ばしにしてしまって、結局、今日になってしまった。

 明日にはキン肉星に発ってしまう彼に打ち明けるには もう今日が最期だ。


「おぉ、ミート。まだ此処におったのか」

「…王子」


 へらりと人懐っこい笑みを浮かべ、ボクに声掛けたのは キン肉スグルその人で、ボクの決意を伝えねばならない人物だ。


「なんも残っとらんのぉ…」

 
 当たり前じゃな、と王子は考え深げに片付けの済んだ室内を見渡した。


「あの、王子!!」
「やや、懐かしのをみっけたぞ、ミート、見てみぃ」


 ボクの言葉を塞ぐように 王子は、柱のキズの1つを指差した。


「これは、出会ったばかりの わしとミートがケンカした時のもんじゃ。……あーっ、テリーが忘れってたトレパンを発見じゃ!!」


 ボクに話す隙を与えるのを避けるように、王子は次々と話題を変え 必要以上に はしゃいでいるように見えた。


「王子!!大事な話があるんです。聞いて下さいっ!!」


 王子は他人の機微に敏感な人だから、きっと ボクが何を言おうとしているのか気付いているのかもしれない。

 ぴたりと動きを止め、ギギギと錆びた歯車が回るみたいな緩慢さで振り返った王子の大きな瞳には、堪えた涙が溜まっていた。

 その涙に、ボクの決意が一瞬 揺らぐ。

 ボクだって出来る事なら、王子と一緒に平和な世界を築き上げたい。見てみたい。そんな世界で笑いあいたい。

 でも同時に、王子が築き上げた平和を 乱す者が現れた時、それを停める次期正義超人たちの力にもなりたいんだ、ボクは。
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