緋語り
□『Bの悲劇』
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手入れが為れずに放置された広い庭園は、かつてこの一族が繁栄していた事を物語っている。
至る所に傷みが見て取れる大きな館も、何処となく過去の事を引きずっているかのようだ。
館への入口であろう口を開けた扉の前で、ジャクリーンは此処まで辿った経路を振り返った。
此処は、数ヶ月前まで住んでいた場所を思い起こさせる。
今では超人オリンピックで得た収益で正義超人委員会も潤ってはいるが、少し前までは辛うじて生活出来るだけの状態が続いていたのだ。
懐かしさよりも苦い思い出が強く思い出され、ジャクリーンは淡麗な顔を歪ませた。
ジャクリーンは息を軽く吐き出すと再び、扉と向き合う。
住人を呼び出す為の設備は見当たらず、ジャクリーンは静かに扉をくぐった。
「御免下さいまし」
人の気配はするものの返事が返ってくる事もない。
「勝手にお邪魔させて頂きますわね」
住人に聞こえるよう、出来るだけ大きな声でそう言うと、ジャクリーンは人の気配のする方へと歩き始めた。