天網恢々
□紅之館 序章
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「皐月。ぼーっとしてると海に落ちちゃうよ?」
間抜け面であっけらかんと言う馬鹿に呆れを通り越して溜め息も出ない。
もう既に諦めといった感情が胸中を締めていた。
「操…現実逃避ぐらい静かにさせてくれないか?」
非難を含んだ眼差しで見やると馬鹿…もとい操はキョトンとしている。
「何で現実逃避なんてしてんの?」
本物の馬鹿だこいつは。
日本一、いやアジア一か?
大体その胸の開いたシャツは何だ、胸の谷間が丸見えだぞ。
一応スーツを着てはいるが、それでは役目を果たしていない気がする。
…全く。
"操"なんて名前の癖して完全に操等立ててはいないではないか……。
「皐月」
不意に名前を呼ばれて少し眉を寄せる。
「全部聞こえてるよー」
「何がだ」
「名前負けしててごめんなさいねーだっ」
「………」
どうやら声に出して言っていたらしい。
まあ良い。
「それよりも、そろそろ何故私をこんな所まで連れて来たのか教えてくれると有り難いのだが?よもや唯旅行に来ただけって訳じゃあないよな?」
「あ!皐月見て見て!海鳥!」
「はぐらかすな」
声のトーンを落として凄みを効かせる。
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