天網恢々
□紅之館 序章
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水面を緩やかに波が覆う。
波は穏やかで海面を静かに流れている。
海は透き通っており、海中に漂う海藻や珊瑚礁が鮮やかに海を彩っている。
空も曇一つない晴天で快晴だ。
心地好い潮風に吹かれて自分の髪が靡く。
母なる大地は自らを悠然と波立たせ、その無限に溢るる慈愛を持ってして私を包んでくれている。
「何一人で感傷に浸ってんのさ」
「………」
突然背後から声をかけられ私は盛大に溜め息を吐いた。
嫌々にゆっくりと後ろを向くと、私を無理矢理連れ出した張本人が足っていた。
そうだ、私はこいつに連れ出されたのだ。
この馬鹿は私の家へ連絡も無しにいきなりやって来、旅行鞄に勝手にクロゼットから出した服や小物をぽいぽいと放り込んだのだ。
そしてその旅行鞄を持ち、唖然とする私の手を引いて無理矢理外に連れ出した。
そんな強引な手段を取られ、今現在私は船の上に居る。
詳しく言うと甲板の上に居る。
どうやらこの船は連絡船の様だ。
多分どこかの島へでも行くのだろうが…。
如何せん納得がいかない。
何故私はここに居るのだろうか?
私は馬鹿に目線を移す。
相も変わらず間抜け面をした奴だ。
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