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□粉、羽、生まれ
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メロが行ってしまったあと、暇になった俺はソファに深く身体を沈め、ゲーム機のスイッチを入れた。



テーブルに踵を乗せるとパラパラとポテトチップスが何枚か床へ落ちた。



テーブルの上には散乱したポテトチップスや何か解らないフロッピー、カラフルなコードをつないだ昔のビデオデッキみたいなでかさの機械と数台のノートパソコンが場所を奪い合うように溢れていた。



床とて同じ。
同じようなものが集合をなくして散らばり、コードが縦横無尽に走って差し込み口を奪い合い、あちこちでモニターが唸っている。



そして所々に山になった煙草の灰皿。俺の口元からは煙草の煙が絶えず上り続ける。



無秩序に見えて、それでも正体不明なものは何も無い。何故って、部屋のこの環境は俺の規則的な生活のしょさんによって育まれたものだからだ。



メロはこんな所で生活するなんて信じられないとかほざいてたが、俺に言わせればマフィアの懐で生活する方が信じられない。しかしそれを言うとメロが"俺を捨てる"発言をしかねないので、言わないことにしている。



踵がポテトチップスの袋をずらしたおかげで、俺はその袋の上に札束がのせてあることを思い出した。さっきメロが置いていったものだ。



『まだ行動には移らない。これはお前にやるから暫く暇でも潰してろ。』



そう言って、どこからか取り出した札束をテーブルの真ん中へ放ったのだ。突然やって来るなり何かと思えば金か。多分同じことを言って、ついこの間置いていった金が、まだ部屋のどこかに埋まってる。



俺は基本的に無駄な出費はしないし、貯蓄にも興味は無い。必要なら数分で稼げるし。俺は割りと自立した人間だったはず。



ある程度の報酬をメロに協力する条件にしたのも、ただ協力者としての体を繕う為、というかメロを納得させる為に過ぎなかった。メロは義理堅いし、無報酬で危ない話に手を貸す奴なんて、信用しないだろう。現にほら、こうして仕事が無くても頻繁に金を渡してくれている。






でも俺にその金を使う予定はない。
昔からの仲だし。




俺がそういう奴だって、
メロだって解ってる筈・・・


と思いたい。自信はほとんどないが。



やっぱり10年の空白はでかい。メロは今やすっかり大人になった。冷静で、頭がキレて、大胆で、目的の為なら多少の犠牲もいとわない強さがある。



昔はよくからかって泣かせたし、毎日同じ釜の飯を食って育ったが、あの頃の友情が今も有効とはとても思えない。そんなの重たすぎる。



俺とメロは幼い時に離別してから、それぞれ成長してやっと再会したんだ。過去の思い出や当時の思慕を捨てた方が、楽なときもある。



何事も新しく始めるより、それを続けていくことの方が難しいものだ。










俺は、

新しく生まれたこの感情が早く死ねばいいと思っている。



思い続けるには重たすぎる。
君へは絶対に届かないから。



俺に、今の君の位置は測れない。見えない所で何かしている。その位。正直見失ってる。



君との新しい関係を望むのに、君を前にして生まれたこの気持ちを殺したいなんて、

矛盾してるだろ?









不安なんだ。
二人でいるのが。






こんな気持ち、久しく生まれなかったから。






それでもそれを殺せずに持て余しているのは、






きっとそこに愛を感じているから。




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