TOA 〜突き進め、我が道を!〜
□八話 雪上の合戦
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悠然と広がる海は、燦々と輝く太陽を白く煌めき返す。穏やかな波は白い煌めきを一瞬たりとも留めることはなく、それは刹那の宝石として次々と世界に溶けて行く。
シェリダンの港、そこに集まったキムラスカ、マルクト、ダアトの兵士達から離れた所。
俺はそこで大海原を進むタルタロスを見送りながら、一人虚しく呟いた。
「…………ヴァンの糞野郎、マジで来なかったじゃねえか」
ヴァンにとって地核が振動していることは相当なアドバンテージだったはずだ。地核の振動は大地を液状化させ、パッセージリングを暴走させる。パッセージリングの暴走は、プラネットストームを過剰にし大量の第七音素を作ることになる。
レプリカを作るには大量の第七音素が必要だから、ヴァンはこの計画を邪魔しにくると踏んでいた。
なのにヴァンは来なかった。
「……やっぱ納得いかねえな」
「ま、いいんじゃないの。楽できたし」
どうやら部下に後のことを任せたらしいシンクとアリエッタが、並んで俺の後ろに立っていた。
不覚。全く気づかなかった。
「何もなくて、アリエッタも嬉しい…です」
人形を抱き締めて、ほっと一息つくアリエッタ。
「まあ……そうなんだけどな。タルタロスにはあいつ等が護衛についてるし、成功は成功だ」
もう作戦の失敗は疑いようはないし、今更俺にできることはない。
相変わらず指名手配されている俺は、一応フード被って変装しているとは言えバレない保証はないので、見つからない内に撤退した。
正直に言って、ヴァンと直接戦うと相当気合いを入れて来ていた。だから何と言うか……うん、虚しいですね。
*
結論だけ言うと、地核の静止はあっさりと成功してしまった。
しかし多少問題は残る。
曇天から降り続ける雪の中、俺達はケテルブルグ付近の雪山を登っていた。
「で、地核にローレライが閉じ込められてるってマジなのか?」
「ええ。私の身体を使って、何かを伝えようとしたらしいけれど……私はよく覚えてないの」
一応コートを着ているとは言え、元がヘソ出したナイスな服装な俺は寒さのあまりガタガタと震えている。そんな俺を呆れたように見ながら、ティアが申しわけなさそうに言うのだった。
ローレライ、ね。
シンクから地核にはローレライがいるとは聞いていたが、閉じ込められてるというのは知らなかった。
「なるほどね、ヴァンの奴そんなことまで隠してたのか。僕ってよほど信用されてなかったんだ」
あいつなんて用心深いんだよ、とシンクは呆れたように吐き捨てた。
「それでアッシュ、ローレライは何て言ってたんだ?」
「どうして俺に聞く」
「ああん? どうしてって、あの声はお前と俺にしか聞こえねえだろ。お前が一番聞こえてる可能性高いじゃねえか」
相変わらず不機嫌そうなアッシュは軽く舌打する。こいつは喧嘩売ってんのか。
「さっき言っただろうが、ローレライはティアの身体を使ったんだよ。俺だってかろうじて『地核から解放』、『永劫回帰』、『悪夢だ』、『やつの呪縛』、『責任を取れ』って単語が聞き取れただけだ」
「……は? まるで意味わかんねえじゃねえか……つーか『責任を取れ』って……は?」
何の責任だよ。皆に視線で尋ねるが、揃って首を横に振られた。
わからないらしい。
俺は大きく嘆息して、ついでにくしゃみをした。
いや、マジで寒い。
今こんな辛いめにあっているのは、俺と何時もの二人シンクとアリエッタに、アクゼリュス以前のメンバーとアッシュを加えた十人。それと数匹のライガ。
何時もはセフィロトに向かう時に他にも護衛がつくらしいのだが、今回は雪山という悪条件のため無理だったらしい。
「それにしても、パッセージリング起動するのに、ティアとアッシュがいねえと無理ってのは面倒な話だよな」
ぼやく俺にジェイドが苦笑する。
「超振動の制御ができれば、貴方にもパッセージリングの操作はできますがね」
「ん? 超振動ならもう制御できるぜ。ついでに治癒術もある程度使えるようになったし」
「な! ほんとなのか、ルーク?」
なぜか驚愕するガイ。その声が大きすぎて、隣を歩いていた俺はついつい耳を塞いでしまう。
「ああ、アリエッタにしっかり教えてもらったからな。つーか、何でそんなに驚くんだ?」
「いや、だって……お前が譜術をねえ」
「馬鹿にしてるんだな、それは」
ガイの腹を軽く殴り、制裁を加えた。
「あ、そういえば」
超振動で思い出し、俺はアニスと手なんか繋いで仲睦まじく歩くイオンに言う。イオンとアニスは……まあ、そういう関係になったらしい。