TOA 〜突き進め、我が道を!〜

□四話 ココロの闇
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「……ルークのお友達は、ダアトに来るはず、です」

今からグランコクマに行くと伝えたら、アリエッタはしばらくの沈黙の後、ぽつりと言った。

「なんでさ? 確かに向こうには導師イオンがいるけど、セントビナー辺りが落ちるのはアッシュが知ってるんだから」

「え、えっと、あの、リグレットが言ってた、です……」

気遣いなんぞ知らないシンクの声に、アリエッタはあたふたと慌てながら答えようとするが、正直意味わからん。

「アリエッタ、とりあえず落ち着け。はい、深呼吸。吸ってー……、吐いてー……、吸ってー……」

目を瞑って大きく深呼吸するアリエッタ。落ち着いたところでゆっくりと話し出す。

「イオ……イオン様をダアトに連れて来るように、モース様に言われたって、リグレットが言ってたです」

ああ、納得だ。和平の妨害はモースの専売特許じゃないか。イオンを監禁するために、モースの指示が出ているわけだ。シンクも「そりゃそうか」などと頷いている。

「僕達から動かなくても、向こうから勝手に来てくれると……。ていうわけでお休み、朝が早かったから寝不足なんだよね」

ベッドにダイブしたシンクの襟首を掴み、俺はアリエッタに手招きする。

「アリエッタ、頼みがあるんだけどよ、譜術教えてくれねえか? 昨日やってみたんだけど、中々上手くいかなくてよ……」

音素制御の術が主な目的だが、習えるものは習っておいた方が得だ。

「……で?」

不機嫌丸出しのシンク。用がないなら放せと睨んで来る。

「シンクは戦闘訓練を手伝ってくれ。今のままじゃ駄目なんだ……俺は強くならないと」

今の俺に足りないのは経験だ。このままじゃあ、ヴァン師匠はおろかアッシュにも勝てない。……まあ、卑怯な手を使えば勝てたんだが。

「頼む、手伝ってくれ」

「は、はい! アリエッタ、頑張ります!」

力強く頷いてくれるアリエッタに、シンクは冷めた目を向ける。

「なんでそんなノリノリなのさ? 面倒なだけじゃないか」

「だ、だってアリエッタ、人に何か教えてあげるの、はじめてだもん!」

「……あー、そうだったね。アリエッタはどっちかって言うと、教えてもらう立場か。役に立つといいね……無理だろうけど」

「無理じゃないもんっ! アリエッタ頑張るもんっ!」

「はははは、ルーク、僕もやっぱり手伝うよ。生きてたらね」

「死なないもん! アリエッタはちゃんとできるもん!」

…………。…………。…………大丈夫、ですよね……?

* * *

意外にも、アリエッタの音素学はわかりやすかった。本に載っていた難しい言葉ではなく、感覚的で簡単な言葉での説明はよく理解できた。

おかげで、譜術は無理だったが音素についてはなんとか体感することができた。意識的に空気中の音素を体内に取り込み、制御して放つ。

とは言っても、時間がかかるので戦闘中に扱えるレベルでは到底ないのだが……。

シンクとの戦闘訓練では……ボコボコにされた。こいつ、強すぎる。

「今回のことで一つわかったことがある。これさえ解決すれば、ルークの戦闘力は格段に上がるよ」

仰向けで寝転がる俺を見下ろし、シンクは至って真面目な口調で続ける。

「真剣使え。木刀とかあり得ない」

曰く、体内の音素を纏った木刀でもそれなりの攻撃力を持つ。しかし、木刀は木刀であり木刀でしかないらしい。

「……つーか、素手のお前に負けた俺はなんなんだよ」

シンクは木刀すら使っていないのだ。意味がわからん。

「僕のは『ダアト式譜術』だから。武器持って戦うより、素手の方が便利なんだよ」

「『ダアト式譜術』ってあれだろ? イオンが使ってる……」

「正確には、『体術』と『特殊な譜術』の組み合わせが『ダアト式譜術』。あいつのは『特殊な譜術』だけ。……まあ、それでも十分強力なんだけどね」

むう……奥が深い。武器を持たない方が戦いやすいとは……。

「そういえば、ダアト式譜術で思い出したんだけど……、あの剣士、ゲ……ゲイだっけ?」

真面目に聞いて来るシンク。俺はかつての親友に心の中で合掌しておいた。

「ガイな、ガイ。ただでさえ少ない知り合いの中に、そんな可哀想な名前の剣士はいない。で、ガイがどうしたんだ?」

「あいつ、キムラスカのお姫様とあんたに殺意を抱いてるよ。アクゼリュスの件とは関係なくね」

「は……?」

「だから、あんたとナタリア姫を殺したいって思ってるのさ。何でかは知らないけどね」

シンクの雰囲気からは、とても冗談を言っているとは思えない。

「……ほんと、なのかよ」

何とも情けない声が出た。だって、あのガイがだぞ。いい奴代表のガイが……。俺はいったい何をしたんだよ。
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