Reach out to the truth

□07話
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アルフォンスに見送られ、日暮れ時。唯一整備された石垣の歩道をエドワードと二人、肩を並べて歩く。

時折、付いて来た犬のデンがサヤの周りをくっついたり、離れたりして、それを彼女もまた嫌がる素振りを見せることなく好きにさせたままひたすら歩いた。




『のどかな所だな』

「まぁな。ていうか、東部の内乱で何にも無くなっちまったんだけどよ」

『…そういうのは少佐にでも言え』

「へいへい。そーするよ」


なんとも淡白な内容の会話を途切れ途切れにしながらもエドワードとサヤはお墓への道をゆっくり歩いた。都会の喧騒が全くないリゼンブールはサヤにとって久しぶりに穏やかな心地にさせた。


途中、道端の野花を摘みつつサヤはエドワードからいろんな事を聞いた。


母親と三人で仲良く暮らしていた事、幼なじみのウィンリィ、弟・アルフォンスとの喧嘩エピソード。くだらない事ばかりではあったが、聞いてて自然と笑みがこぼれた。




『…ふふっ…!』

「二段ベッドの上と下とかでもケンカしたっけな」

『それはどっちが勝ったんだ?』

「もちろん俺!」


へぇー…、と意外そうに返すサヤ。




「そういやさ、お前には兄弟とかいたのか?」


唐突にされた質問にサヤは否、と答えた。
自分のことを聞かれるとは思ってもいなかったので少し驚いた。



『いとこはたくさんいたけど、兄弟というのは私にはなかったな。小さい頃は母と二人で暮らしてたんだ。』

「そうなのか。なぁ、ちなみに父親って…」

『父もいるにはいるけど、ちょっと特殊で私にとっては遠い存在だった。今まで生きてきた中で、たった一度しか口を訊いたことがないんだ。』



普通に一緒に暮らすどころか、逢ったことも数えるほどで。でもそれはあの時の自分が生きる環境・状況において当たり前で、仕方のないことだとサヤは語る。




たどり着いたエドワードの母親の墓標。
墓石には”トリシャ・エルリック”の文字が。
二人並んで祈りを捧げた。



『エルリックって母上の姓だったんだ』

「あぁ、まぁな。」

『お母様はどんな方だった?』

「…優しい人だったよ。オレやアルが錬金術を見せると必ず誉めてくれたんだ。それがただ嬉しくて俺たちは錬金術にのめり込んだ。それが、この結果を招いたんだけどな、」

『……、』



自分で自分を嘲るエドワードをサヤは黙って見つめた。

人より多く持った知識におごれ、きっと出来ると信じ込み行った人体錬成。
錬金術は決して神の業などではないのだと、失って初めて気づいたあの頃。



「おかげでこのザマさ。笑えるだろ?」



『…、…誰だってそう思うはずだ。母親が大好きで遠い存在になってしまったら…、また一緒にいられる術が、可能性が手元にあったら…、』

「──…、」

『誰だってそう思う。もう一度会いたい、と。きっと私も…』

「なぁ…サヤの母さんはどんな人だったんだ?」



以前サヤ本人から母親はすでに亡くなったと聞いていたエドワードは、ふとサヤにも同じことを訊いてみた。

柔らかな風がサヤの顔に掛かる髪を撫で、そのとき、見せた彼女の懐かしむような穏やかな笑みがエドワードの目に焼き付いて消えなかった。



『私の母は…、もちろん優しかったんだけど、とても変わった人だった。突然山へ行くと言い出したり、かと思えば部屋に引きこもって本を読み漁ったり…。かなり不器用だったし、』

「へぇー…、だからサヤみたいなヤツが生まれたんだな」

『それはどういう意味だ。』


エドワードの失礼極まりない発言にじとりと睨むも彼はカラカラと笑うだけで。


…だが、ここに第三者がいればお互い様だとツッコみたくなること間違いなしである。




「アルのやつがさ、前に言ってたんだ。」

『何を?』

「“何で兄さんとサヤは直ぐケンカするんだろうな”ってさ」

『…、それはきっと私とエドワードが“似てる”からかもしれないな』





 ・・・・・、




「『〜〜〜っ』」



思わず鳥肌が立つ二人。



「いきなり何言い出すんだてめぇはッ!」

『私だって言いたくなかったさ!』



でもつい口が…、などと口をモゴモゴさせるサヤ。

先の言葉は無意識に出た発言だったようだ。



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