無題
□ひら
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視界の端っこにちらと覗いたものが気になって、ぼくは俯いていた顔をあげた。
ほのかな甘い香りが鼻をくすぐる。
ぼんやりと浮かぶ太陽が知らないうちにどこかへ行ってしまったようだった。
とりどりのカラーセロファンが何枚も重なって、世界を黒くしてしまうように。
完全じゃない闇がそこにあった。
ぼくは待った。
足元をじっと見詰めて、ずっと長いこと待った。
途中から地面が揺れているような感じがして、本当に自分がまっすぐ立っているのか分からなくなった。
おぼつかない。
そう思った。
ぼくがぼくをすっかり知っていることなんてありえないけれど、どうしてこんな簡単なことまで出来なくなったんだろう。
じっと見詰めていたので、地面にはぽっかりと穴が開いてしまった。
きっと向こうへ繫がっているなと思った。
でもぼくは穴へ入ろうとは思わなかった。
ぼくは待つ。
この茶色がかった闇に変化が起こるのを。
風。
目の前には痩せた梅の木がひとつ。
白くて愛らしい花弁が、ひとつ、ふたつ、舞った。
待ってたよ。
やっときたんだね。
そっと開いた手のひらに、梅があいさつした。
09.04.08