短編

□本当はね!
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今日の委員会活動は、久し振りに野外で行われる事になった。
学園長のいつもの思いつきで、僕達体育委員会が裏々山まで山菜採りに行くことになってしまったのだ。
なんでも食堂のおばちゃんの山菜料理が食べたいとかで。
学園長の思いつきかと思うと少々嫌な予感もするが、おばちゃんの作る山菜料理の美味しさと比べれば、当然取りに行くに決まっている。

「よし、お前たち!裏々山まで一気に行くぞ!登ったり降りたり登ったりしながら!」

久し振りの野外活動が嬉しいのか、七松先輩が先頭を切って駆けだしていく。
学園内での作業が多かった最近の委員会活動に体力が有り余っていたのか、いつも以上に七松先輩の駆ける速度が速い。
七松先輩、滝夜叉丸先輩、次屋先輩、時友先輩、そして僕という順番に、森の中を駆け抜ける。
先輩たちの速さについていくのが精一杯で、すぐ前を走る時友先輩の背中だけを見つめていた。




不意に時友先輩が速度を緩めたので、もう裏々山に到着したのかと僕も速度を落とした。
今日は速かったですね、と声を掛けようと時友先輩に近づく。
しかしそこに居たのは時友先輩と次屋先輩だけ。七松先輩と滝夜叉丸先輩の姿は何処にもなかった。

「あれ?七松先輩と滝夜叉丸先輩は……?」
「それが……」
「……道、間違ったみたいだ。」
「えぇ!?」

罰が悪そうに伝えられた事実に、思わず大きな声が出る。

「気付いたら、滝夜叉丸先輩の姿がなくて……、悪い。」
「ごめんね、金吾。僕付いていくのがやっとで、前にいる次屋先輩しか見てなくて、それで……。」

申し訳なさそうに謝る二人に、怒る気も起きない。だって、僕も付いていくのに必死で、横道に逸れた事に気付かなかったんだから。
誰を責める事もできず、皆が自分のせいだと頭を下げる。
しかし謝ったからといって、この状況がどうにかなるわけでもない。
なんとかしなければと、それぞれ思案し始めた。

「やっぱり先輩たちを探しましょうよ!」
「でも、闇雲に進んだらもっと迷っちゃうかもよ……?」
「……狼煙、あげてみるか?」

次屋先輩の提案に、コクリと頷く。
道具はないけど、幸い森の中だから木や枯れ葉沢山ある。
時友先輩と僕が枯れ葉や枝を集めて、次屋先輩が火をおこす。
やっと完成した頃には、辺りはだいぶ暗くなっていた。
折角作ったのだが、即席の狼煙では煙が高くは上がらない。

見つけて、くれるだろうか……。

不安な気持ちが形になったかのように、空に厚い雲が立ち込めてくる。
降るなと願う僕らを嘲笑うかの如く、ポツポツと雨粒が落ちてきた。
次第に雨は本降りになり、ザーザー降る雨に、頼みの綱だった狼煙も、消えてなくなってしまった。
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