短編
□私の委員長
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「あ、ありまし…」
「滝、痛いかもしれないが我慢だぞ!」
懐から手拭いを取り出し、先輩に渡そうと顔を上げた。
と、私がそれを差し出すよりも早く、先輩の顔が近づく。
え?と思った時には、額にべろりと濡れた感触。
「え、な、なに…」
「消毒消毒」
ニカッと笑って告げられた言葉に、漸く事態を理解した。
先輩が消毒と称して舐めあげた額を押さえながら、赤く染まった顔で先輩を見れば、舐めときゃ治るって言うもんな!とからからと笑う先輩がいた。
「……んぱーい」
「…………るせんぱーい」
せんぱーいと木霊する声に我に帰って、落ちてきたであろう場所に目を向ける。
と、崖の上から覗く三人の顔。
しかしそのうちの二人の目元を覆うようにして、最年長者ががしりと頭2つを抱えていた。
「あ、どうぞ続けて下さい。一二年にはまだ早いと思うんで、目隠ししときますから」
しれっとそう宣う三之助のそれは、善意なのか悪ふざけなのか。
さも今から続きがあるかのように、次いで自分までもが目をそらす三之助が小憎たらしい。
「さ、三之助ー!」
赤い顔で怒鳴ってみても、聞こえているのかいないのか。
そっちに戻った暁には覚えていろよ、と声に出さずに念を送った。
「さ、上に戻るか!」
「あ、はい」
七松先輩の声に従い、砂埃を払って立ち上がる。
崖とは言っても規模の小さいそれは、意図もたやすく登りきれた。
三之助に制裁を加え、二股道の正しい道を進んで行くと、そこには見慣れた光景が広がる。
学園も近くなり皆でゆっくり歩き出した折、自分の不甲斐なさに気が治まらない私は再び七松先輩に謝罪を述べた。
「すみません、金吾や四郎兵衛ならまだしも、私まで…」
「何言ってるんだ、いいんだよ」
だって、
「私はお前たちの委員長だからな!」
沈みかけた夕陽を背に、七松先輩が快活に笑う。
金吾たちを追って走り出した先輩の背を見つめながら、私は額の傷を指でなぞった。
終
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