短編

□私の委員長
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「とうちゃーく!」

途中から私の速度に併せてくださったおかげで、何とか無事三之助達の待つ場所へたどり着けた。
大人しく待っていた三人の姿に安堵する。
と、金吾が私のもとへ駆け寄ってきた。

「滝夜叉丸先輩、大丈夫ですか?」

辺りに気遣ってか小声でそう尋ねる金吾の表情は、情けなく眉が垂れている。
大方自分のせいで私が七松先輩を追う羽目になったと思っているのだろう、声に出さなくとも謝罪が聞こえてきそうな顔だった。

「平気に決まっているだろう。この成績優秀な私に不可能な事など無いからな」

指を立て、自信あり気にそう告げれば、困ったような表情ではあるものの金吾が笑う。
それを確認してから、さあ帰るぞと声をかけ、七松先輩たちの輪に加わった。

「よーし帰るぞ!皆、道は覚えてるか?帰りは指示をだしたりしないからな!」

はーいと元気よく手を挙げる三つの声。
一つは本当に覚えているのか怪しいものだが、別れた時にあれだけふらふらだった三人が回復したようで安堵した。
行きには、事前に七松先輩が罠や足場の悪いところを知らせてくださったが、帰りはそれがないらしい。
これも修行の一環という事だろうか。
しかし先輩もついているし、何より体力がある程度回復しているあいつらなら問題はないだろう。
伊達に体育委員会に所属していない。

私の思惑通り、皆軽快に道を進んでいく。
しかし半分程行った時だろうか、徐々に金吾と四郎兵衛の速度が遅くなり始めた。
いくら休んだとはいえ、満足に回復した訳ではないから仕方がない。
小さな手足を懸命に動かす二人には、明らかな疲労が見て取れた。
一番遅い者に速度を合わせようという案から、金吾と四郎兵衛が先頭を走っているため、無理な走り方を強いる事は無いだろうが、些か不安である。
後ろからちらちらと二人の様子を気にしながら走っていると、それがいけなかったのか、私の思考を反映したかのように四郎兵衛が足を滑らせた。

「おっと。気をつけろよ、四郎兵衛」
「はいー、すみません…」

あ、と私が手を出すより早く、横から伸びた七松先輩の腕が四郎兵衛を抱え込む。
小脇に抱えられたまま、まだ走れるかと問われた四郎兵衛は、大丈夫ですと答えて先輩の腕から降り立った。

「金吾も気をつけたほうがいいよー」
「はい、そうします」

僕は一回転んでるから、と苦笑した金吾と並んで四郎兵衛が走り出す。
と、四郎兵衛へと顔を向けていたため足元が疎かになっていた金吾の姿が、ふっと地面へ吸い込まれた。

「金吾!?」
「金吾ー、気をつけろって言ったろ?」
「すすすすみません…」

何が起きたか分からない私を余所に、しゃがんだ七松先輩が地面に向かって話しかけている。
正面に回り込んで見てみれば、落とし穴に落ちかけた金吾が七松先輩に両脇を掴まれ、ぶらんとぶら下がっていた。
突如崩れた地面に余程驚いたのだろう、冷や汗をかいて青ざめた顔が、金吾には悪いが妙に笑えた。

「気をつけましょう!ね、時友先輩!」
「うん」

ひょいと穴から抱き上げられ地面に降り立った金吾は、とても真剣な表情で四郎兵衛と頷きあっている。
その姿に少々癒された後、私たちは再び帰路を走り出した。
しかし金吾と四郎兵衛の決意虚しく、その後は躓いたり罠にかかりそうになったりと二人は大忙しだった。
が、その度に七松先輩が手を貸すため、転んだり罠で怪我をしたりという事は一度もなかった。
流石上級生と言うべきか、こういった一面を見せられては、迷惑極まりないと思っていた気持ちもすっかり帳消しになってしまう。
だから結局、私たちは毎回この人を許してしまうのだろう。

「七松先輩すみませーん…」
「いい、いい、気にするな」

何度目か分からない落とし穴に落ちそうになった四郎兵衛の保護に、暫し足を止める。
先程から幾度と無く走っては立ち止まりという行為を繰り返しているせいか、はたまた七松先輩を追ったツケが回ってきたのか、自分のものとは思えない程に足が重い。
足踏みをして解そうと動かしてみたが、膝が上手く曲がらずまるで棒の様だった。

「よーし行くか…、て、あれ?ここはどっちだったっけなあ?」

振り返った七松先輩の声に反応し、何とか足を動かして駆け寄る。
と、その先の道は二股に分かれていた。
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