短編

□私の委員長
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陽は傾きかけ、校庭で遊んでいた下級生たちもちらほらと長屋に帰り始めた夕刻。
私、平滝夜叉丸を初めとする体育委員以下四名は、ニカッと笑う委員長の眼前に、何故か整列させられていた。

「よし!今日は初めて走るコースを行くぞ!」
「「「「…おー」」」」

なんだ元気ないぞ?と七松先輩が首を傾げる。
声を揃えて返事を返したは良いものの、この時刻からの委員会、ましてや野外でなど喜び勇んで参加する者がいるはずもなく、皆、気乗りしないと顔に書いてあった。

「あの、どこまで行くんですか…?」

おずおずと金吾が声を発する。
と、七松先輩はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに目を輝かせ我々を見た。

「まだ決めてない!」

自信満々に、笑顔のおまけまでつけてそう仰った七松先輩に、皆の顔が引きつるのが分かった。

「ゴールも決まっていないのに今から出発なんて無謀すぎます!時間のある時に計画を立ててから…」

先輩を説得しようと声を上げる。
滝夜叉丸先輩頑張って下さい、と言いたげな三つの視線を背にひしひしと感じた。

「大丈夫大丈夫、そんなに遠くまでは行かないから!」
「いえ、そうではなくてですね…」

予定になかった委員会が急遽行われる、これが私達に何を意味するのか、この体力が有り余っている先輩には分からないらしい。
委員会があると分かっていれば、実技の予習復習を軽く行う程度に留める事が出来た。
金吾や四郎兵衛、三之助だって、放課後に友人とクタクタになるまで遊ばなかっただろう。
つまり今の我々には、普段の委員会以上に七松先輩に付いていく体力が残されてはいないのだ。
緊急時に対応出来るだけの体力もないなどと情けないこと甚だしいが、しかし、無いものは無い。
とてもじゃないが、今日先輩を追いつつ下級生をサポートする事は不可能である。
私だけではない。
こいつらだっていつも以上に疲労しているし、今出発したとして、しっかりマラソンコースの下見が出来るとは思えない。
ましてや走りなれない順路。
仮にはぐれてしまったとして、既知のコースならいざ知らず、下手をしたら戻って来られない可能性だってある。

「兎に角、私は反対です!」

うんうんと三人が力強く頷く。
じっと七松先輩見つめる四対の瞳。
どうかこの思いが伝われと、皆一心に七松先輩に視線を送った。

「そっかぁ…」

ぽつりと七松先輩が呟く。
目を閉じ眉間に皺を寄せ、珍しく思案顔を作る我らが委員長。
う〜ん、と唸る七松先輩の様子に、ごくりと唾を飲む音がやけに大きく響いた。
と、七松先輩がぱちりと目を開く。
その顔に浮かぶ快活な笑みを見て、皆の顔が期待に明るくなった。

「私が偵察しつつ行くから、皆はゆっくり来るといい!」

さあ行くぞ、そう言って門へと歩み始めた先輩に、我々四人がこの世の終わりかのように落胆したのを、先輩だけは知らなかった。
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