短編

□限定一名様
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「可愛くないガキだな」
「みなさんそうおっしゃいます」

眉を寄せそう呟いた男に、何てこと無い顔でそう返した。
そしたらまた、ほんとに可愛げがねぇなと吐き捨てて、その男は行ってしまった。
その男が去って行った方を一瞥し、二度と来るなと舌を出す。
可愛げがなくて悪かったな。
親も家もない俺は、生きていくために必要な資金を全部自分で賄わなきゃならない。
銭を稼ぐ為にはアルバイトをしなきゃならないし、売上を伸ばすためには愛想笑いも大事だ。
長年の経験から、そんな事は重々承知している。
だから、ちょっと位嫌な客や面倒な取引先であっても我慢できる。
生きていくためだから。
でも、俺の愛想は有料だ。
例えば品物を買ってもらう為だとか、仕事をもらう為だとか、愛想良くした先に利益が待っていると思うから笑いかけてやるのであって。
さっきの男みたいに、いちゃもんをつけて商売の邪魔をしてくる奴にまで振り撒く愛想は、生憎持ち合わせていない。
こんな性格だから、可愛くないガキだとか子供らしくない奴だとよく言われる。
自分でも子供らしくないと思う事もあるけど、俺みたいなのが生きていくためには、子供らしさなんて真っ先に捨てなきゃいけないものだった。
どケチな俺が、唯一捨てたもの。
後悔はしてないけど、それを持っているやつが羨ましくなる事もある。
そんな時は稼いだ銭を数えて、代わりにこれを手に入れたんだと言い聞かせる。
そうすれば次第に心も落ち着いて、妙な胸騒ぎを忘れることが出来た。




日が落ちて来た街道では、帰路に着こうと足を早める人ばかりで、俺の露店に目をとめてくれる人はもう誰もいなかった。
売れ残った商品を荷袋に詰めて店仕舞い。
明日は場所を変えてみようかと、荷袋を担いで帰路についた。
子供が持つには少々大きすぎる荷袋を背に、とぼとぼと歩く街道には俺の影が一つ伸びているだけで。
人どころか野良犬一匹いやしない。

可愛くないガキだ

偶々俺が商売していたところにやって来た客。親しい相手ではないし、二度と会うこともないだろうその男に、昼に投げ掛けられたあの言葉が頭をよぎる。
いつもなら気にも止めないその一言が、なんだか棘のように突き刺さって、ズキズキと胸が痛む。
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなった。
その言葉に傷ついている自分が嫌で、立ち止まって地面を睨みつける。
俺は、そんなに弱くない。
足元に落ちてた小石を拾い上げ、憤りと一緒に力一杯放り投げた。

「痛ッ!!」

弧を描いて飛んでいった小石が茂みに消えると、その茂みから声が聞こえた。
まずいと思い、隠れるところはないかときょろきょろ辺りを見渡しているうちに、がさりと音を立てて茂みから人が現れた。
面倒に巻き込まれる前にと、くるりと踵を返して走り出したが時すでに遅し。
背負っていた荷袋をむんずと掴まれて、逃走は失敗に終わった。
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