短編

□愛しい君へ
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初めは、ただ面白い奴だなと思っていただけだった。
それがいつの間にか目で追うようになっていて、君に興味を惹かれているんだと気付いた時には、もう目が離せなかった。
"面白い"が"気になる"に変わったあの瞬間から、私は君に惹かれていたんだ。

好きだと告げた時の君の顔、私は今でも鮮明に覚えている。
信じられないというように首を振って、悲しそうな顔をした。
皆から自信家だ高慢だと言われる君が、私に好かれているという自信だけはいつまでも持てずに震えていたね。
私よりも一回り以上小さなその体を抱き寄せて、何度も好きだと繰り返したら、恐る恐る君の手が私の装束を握りしめて。
あの瞬間、君は殊更私の特別になったんだ。



滝、ごめんな。
お前の事が大好きでごめん!

滝を見つけるだけで、声を聞くだけで、心が弾んで嬉しさを内に秘めておけないんだ。
所構わず飛びついて、大きな声で名前を呼んで、それが滝を困らせているって自覚はあるけど、この気持ちを止める術が見つからない。
その後に必ず続く滝のお小言さえも嬉しくて、ついつい顔が緩んでしまうのも仕方ないだろう?
怒ってる滝も可愛いなあなんて、本当はあんまり反省してないんだけど、これは内緒にしておくね。
それから、困ったように眉を下げて笑う笑顔が可愛いのも、私を増長させる要因だよ。
だから、滝も悪い!
これはおあいこ。



滝、ごめん。
独り占めしたくてごめんな!

滝が誤解されやすい奴なだけで、本当は凄く良い奴だって事、私は知ってる。
でも、それは私だけが知ってればいいだろう?
皆がそれに気づいてしまったら、滝を狙う輩が増えてしまうから。
本当は誤解や噂なんてない方が良いに決まっているけど、私には好都合。
我が儘でごめんな。
世話焼き、頑張り屋、綺麗好きで繊細で。挙げだしたらきりがない程、私は滝の良いところを知っているよ。
それは滝の好きな部分でもあるけれど、同時に嫌いな所でもある。
だって滝は、誰にでも平等にそう接するから。
委員会の奴らや級友は、滝の優しさに気づいてる。
私だけ特別って、本当に思ってる?
照れてる顔も可愛いけど、たまには態度で示してくれよ。
誰にでも分け隔てない滝だから、私が君を独り占めしたいと思うのも仕方ないだろう?
やっぱりこれも、滝が悪い!



滝、ごめん。
いつも振り回してごめんな!

散々体力馬鹿だとかくそ力だとか言われているけれど、仕方ないんだ、分かってくれよ。
実技の授業や文次郎達との鍛錬も勿論楽しい。
でもそれとはまた違った楽しさが、委員会活動にある気がしてさ。
へとへとになっても、泥まみれになっても、みんな最後まで私について来てくれるから。
後ろを振り返った時の安心感と幸福感が、私を掻き立てるんだ。
まだ体の出来てない後輩と体力馬鹿な私に挟まれて、滝が一番疲労困憊だろうけど、頑張ってついて来てね。
頼むぞ滝夜叉丸!



ごめん、ごめん、ごめん。
いくら謝っても足りない位、滝に迷惑をかけている自覚はあるよ。
でも、やめてあげない。
だって、私が迷惑をかけている間は、滝の意識は私一色だから。
この優越感が、嬉しさが、滝に分かる?
好きで好きでたまらない人が自分だけを見てくれるだけで、こんなにも満たされるなんて。
滝に出会うまで、私は知らなかった。
そういった感情に疎い私は、好きって気持ちは一種類しかないと思ってたんだ。
それが滝と出会って、家族とも仲間とも違う好きがある事を知って。
今までと同じ日常が、滝の隣に立つ日々が、途端に色付き始めた。
滝がいないと駄目だなんて、そんな情けない事は言わないけれど、滝がいれば百人力だって事は、胸を張って言えるかな。


滝も知っている通り、私はあまり賢いほうではないから、使い古されたありきたりな言葉しか思いつかないや。
気の利かない男でごめんな。

滝夜叉丸、



「大好きだぞ!」










 

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