小説
□僕の居ない場所で幸せなんて感じないで
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※ノアリナ←ノアアレ
度重なる仕事から帰ってきたアレン
特にエクソシスト狩りをした後は気分がいい
怪物の口元が忌(い)まわしい嗤笑(ししょう)を刻む
自分に体中に流れてるノアの血が沸々(ふつふつ)と煮えたぎり、細胞さえ活性化するのを感じる
それもアレンにとっては単なる遊びにしか過ぎず、準備運動でしかない
これから向かう場所にいる強敵はエクソシストなんかの数倍手強いからだ
伯爵の元に帰り、一通りの連絡をし終えると長方形の大きなテーブルで、リナリーがティキやロードと話しているのを目の当たりにする
「おっ帰りぃー!アレン」
ロードが大広間に入ってきたアレンに飛びつく
「ただいま、ロード」
目に見えて態度が軟化(なんか)する
ロードは誰よりも家族を大事にしており、性格も自由奔放で行動は気ままだ
おかげでお守り役を自認しているレロはいつも気苦労が絶えない
所謂(いわゆる)ロードなりの挨拶の仕方、愛情表現なのだろう
「ついでに、ティキも」
擦り寄ってくるロードの髪を撫でながら、宿題と格闘しているティキにも顔を向ける
「オイオイ……ついでにはねーだろ」
人の弱点をピンポイントで突いたアレンの容赦ない物言いに、疲れたティキは大きな溜め息を吐きたくなる
「今日はね、珍しくリナリーもいるんだよ」
ウエイトレスの服装に紛したアクマに、持って来させた紅茶を黙々と飲むリナリーにアレンは目を向ける
視線は合ったがすぐに反(そ)らされた
「ただいま、リナリー」
机に肘(ひじ)をつき、明るい風を装って、さりげなくリナリーの顔を覗くと、彼女は唇を尖らせ、アレンを睨んでいた
「……なんで貴方がここにいるワケ?」
依然、不機嫌げに歪められた少女の麗貌(れいぼう)を、アレンは銀灰色の瞳で見返す
「伯爵から頼まれて、聖職者を狩りに行ってきたんです」
リナリーの声に含まれている棘(とげ)に気づきながらも、愛想よく話しかける
「そう」
とげとげしく顔を背(そむ)けると、足早に歩き始める
「あっ……待って下さいよ」
話の途中ですたすたと歩き始めたリナリーの背中を、慌てたような声が追った
「来ないで」
肩にかかったアレンの手を払い落とすと、リナリーは邪険に吐き捨てた
「どうして僕のこと、そんなに嫌うんですか?」
リナリーは鋭く舌打ちした
「お願いですから質問くらい答えて下さ――」
「笑顔」
アレンの声を遮ったリナリーの声は、触れれば撥(は)ね返されそうな硬さを含んで響く
そして、はっきりと彼の疑問に釘を刺す
「貴方の笑顔。胡散臭いのよ、生理的に気に食わないわ」
気圧(けお)され押し黙るアレンにいわれのない罵声(ばせい)を投げつけ、リナリーは逃げるように大広間を後にした
告げられた言葉に、アレンの顔色が変わる
それを心配げに覗き込みながら、ティキは宥(なだ)めるように呟いた
「相変わらずスゲー嫌われてるな、お前」
「ほっといて下さい」
アレンが無念げな声をあげるのを耳の端で聞きながら、ティキはテーブルの片隅に置いてあったドーナツを頬張った
「僕は好きなんですけど……そっけなくても」
自分を励ますように独り言を呟くアレンに、視線を送りながら小声で囁く
「お前、もしかしてマゾか?」
「違います」
残酷なまでの無関心さでティキを黙殺したアレンは、静かにため息をついた
そして、壁に掲げた新しいカレンダーに妙な重さを感じながら、「今月も頑張るしかないな・・・」と疲労感に潰されそうな期待感と、溜息に消されそうな深呼吸をもってアレンは自分に気合を入れ直した
お題拝借、闇に溶けた黒猫様